正座する月音と、そのすぐそばにいる百合緋。
そして少しだけ離れて座っているのは、銀色の畳に届いてなお余る髪と、和服を着て腕に羽衣みたいなものを絡ませている女性だった。
年のころは二十代前半に見える。
出で立ちからして、あきらかに人間ではない。
(天音さんって確か、縁さんが言ってた人だ……天女なんだっけ? 天女ってあやかしだったんだ……)
自分の記憶と照らし合わせる煌。
確かに、人間離れした面差しをしている。
「――って、父様!? なんで!?」
最後に姿を見せた碧人に声が大きくなった月音の前に、白桜が片膝をついた。
「月音、碧人から何か話があるようだ。小田切と一緒に聞いてもらえるか?」
「は、はい……?」
白桜の言葉の意味を探りかねてか、月音は首を傾げた。
白桜に促されて百合緋と天音が退室し、反対に煌と碧人が客間に入って、それぞれ正座した。
「月音……」
「は、はい、父様」
煌は、こくりと息を呑んだ。
月音が知らなかったという母の話をするのだ。
月音はショックを受けるだろうか……。
「実は、煌くんにお前の許嫁になってもらうことになった」
「はい……ええっ!? な、なんで……?」
至極もっともな反応だった。
ついさっきまで彼氏ですらなかったのに。
「煌くんには承知をもらっている。ご家族に話すのは、まだこれからだが……」
「いや待ってください父様、なんでそんな話になってるんですか。私がいない間に何があったんですか。ちょっと小田切くんも真顔やめて。怖い、なんか怖いよこの空間」
月音が安定の混乱をしている。
まあ、そうだわな、と煌は糸目になった。
いきなりこんな話ぶちこまれたら誰でも驚く。
そんな娘を見ながら、碧人は感慨深げにつぶやいた。
「お前は本当に華音(かのん)には似なかったなあ……」
「母様ですか? そうは仰っても、父様ろくに教えてくれませんし、私に母様の話をしてくださるの大叔父様しかいませんし……。でも大叔父様の語る母様って、なんか妖精みたいんですよね……」
どんな方だ、月音の母。半眼になる煌。碧人は深くうなずいた。
「ああ。叔父上とは、華音を争った仲だから」