「そ、そんなことしなくて大丈夫よっ。様付けもしなくていいわ」

「いえ。その――私は個人的に百合緋様を推しておりますので、そう呼ばせてください」

「お、おして……? どういう意味?」

部屋に入った百合緋が、月音の前に正座する。

月音は顔をキリっとさせて答えた。

「私にとって、白桜様と百合緋様と黒藤様は『推し』なのです。恋情ではありませんが、お慕いしております」

同級生にする告白にしてはぶっ飛んでいたが、百合緋は深く突っ込まなかった。

「……そうなの? 白桜と黒藤はわかるけど……なんでわたしまで?」

「白桜様と並ぶとまことに尊いのです」

月音理論を展開すると、百合緋は頬に手をあてながら「そう」とつぶやいた。

なんだか感心しているようだ。

「神崎さんって独特の感性なのね……。あの、白桜から式文(しきぶみ)が届いて読んだんだけど……」

「はい」

式文とは、書いた手紙を蝶や鳥の姿にして届けたい相手に飛ばすものだ。

相手のもとへ届くと手紙の姿に戻る。

白桜も通信機器は持っているが、やはり幼い頃から馴染んだ方法なのでつい連絡に式文を使ってしまいがちだった。

百合緋はかしこまったように、そして少し不安げな様子で小さくなった。

「その……わたしも、神崎さんのお友達、を……名乗っていいのかしら……?」

視線を畳に逃がしている百合緋。

月音は真正面から答えた。

「はい。私なんぞでは畏れ多いことですが、百合緋様さえよろしければ」

その返事を聞いて、百合緋はがばっと顔をあげた。

大きく目を見開いている。

「ほ、ほんとっ!? わ、わ、わたし――泣きそう~~~!!!」

「ゆ、百合緋様!? そんなお泣きにならなくても――」

言って、月音ははっとした。

これ、普段自分が煌に言われていることに似ている。

友達が出来たら百合緋は狂喜乱舞する、とは本当だったようだ。

「月音ちゃんって呼んでもいい……?」

泣きそうな声で問われて、月音は首が飛ぶんじゃないかという勢いでうなずいた。