「……突然で困ったよね。ごめんね」
「い、いえ――」
「でも、月音の友人であってくれたことは素直に嬉しいんだ。しかもあの子が人助けをしていたことが、何より嬉しい。……御門のご当主、小路の若君。私の腹も決まりました。月音に、陰陽師修行をつけます」
「……いいのか?」
白桜の問いに、碧人はうなずいた。
「逃げていたんです。私は。妻の出自は、神崎流の弱みになる。桜木と婚姻していたことが露見すれば、月音の代になって、他流派やあやかしから月音を娶(めと)ると言われるかもしれない。それを防ぐ方法として、月音を陰陽師にはしない――それしか、私には考えつきませんでした」
「あやかしと結婚することもあるんですかっ?」
煌の頓狂な声に、黒藤がうなずいた。
「そうしょっちゅうあるわけじゃないんだけど、霊力の高い人間があやかしから伴侶にと望まれることもあるんだ。そういう案件においては、俺らの出番ってときもある。あやかしと人間の交渉役だな。双方の意見を聞いて、出来るだけ穏便な形で収めることが目的。あやかしの中には、最悪『神隠し』って方法を持っている奴もいるから」
神隠し――煌もそのくらいは知っている。痕跡もなく消えてしまうことだ。
もし月音を――月音の血を狙ったあやかしがいて、そのような強硬手段に出られたら――
「……月音ちゃんにもその可能性があるってことですか?」
黒藤が目をすがめた。
「ない、とは言い切れない。月音の混血は前例がないから、あやかしとしてはその血が自分たちにどう影響を与えるか知りたいと思う者もあるだろう。そうした場合、桜木との婚姻の件で碧人を脅して月音を花嫁とし、自分たちの手中に収めてしまえば、月音の血を使った実験も存分にできる」
「だめ! それ絶対だめなやつ!」
叫んだ煌に、白桜が首肯する。
「そう、それはだめなやつだ、小田切。――お前の意見は、お前が決めていい。俺たちは月音の相手にお前を推しているが、無理強いをする気はない」
白桜に諭すように言われて、煌は碧人に向かって畳に手をついた。
――煌の腹も、決まった。