(そういうことなら先に言っておいてくれよ! 俺だっていきなり許嫁とか、混乱するわ!)

もしこの場に月音もいたら、混乱しすぎて吐血していたかもしれない。

碧人はじーっと煌を見てくる。

(う……皿のような目をしてる……さすが親子、おんなじ顔……)

そんなどうでもいいところに思考をやっていないと、何を考えたらいいのかもわからない。

煌にとってあからさまに嫌な話でもないから、白桜と黒藤に嫌だと言う気は起きなかった。

だが、碧人に対して、月音さんのことは任せてください! と堂々と名乗れるほど好かれている自信もない。

(いや、俺は好きなんだけど、月音ちゃんの意思を無視して進めていい話じゃないだろ……)

なおも碧人に皿のような目で見られながら考えてはっとした。

今まで都合のいい言葉で逃げていたことに、今気づいたように。

「小田切……くん」

「あっ、は、はいっ」

碧人に名前を呼ばれて、逸らしていた視線を向ける。

碧人は言いにくそうにしながらも、まっすぐに煌を見た。

「月音と友人でいてくれるようだが……いきなりこのような話に巻き込んですまない。全部、私が月音に本当のことを教えていなかったせいだ」

「い、いえ――俺も月音さんにはたくさんお世話になっておりますので……その、歩いてるだけで憑かれちゃう体質だったりするので……月音さんがお父さんから護符を預けられているから、とそれを使ってくれたりして……」

しどろもどろになる煌に、碧人は一度目を閉じた。

碧人が、白桜と黒藤が目の前に現れてから、やっとひと心地つけたように。

「ああ……あれは私の、せめてもの罪滅ぼしというか……。都合のいいことなんだけど、娘に身を護る術を与えなかった代わりに、と……。お役に立てているようで、よかったです」

「ほ、本当にありがとうございます……」

「………」

「………」

それきりお互い黙り込んでしまった。

コミュ力高いと言われる煌がこんな事態になっているのは、許嫁という二文字のせいだ。

それって結婚する人同士じゃん。俺まだ彼女いたことすらねーよ。

黙り込んだ煌に申し訳なく思ったのか、碧人は眉尻を下げて煌を見てきた。