「実は……近々、影小路に始祖の転生と呼ばれる少女が籍を移す。名を、桜木真紅(さくらぎ まこ)。俺の母の双子の姉である紅亜(くれあ)姫の一人娘で、俺の従妹だ」

それを聞いた碧人は、目を丸くした。

「察しの通り、真紅も桜木の血を引いている。真紅の場合は父方だが……ちょうど、白とそちらの話にも首を突っ込んでいたから少々驚いた……」

どうやらこの二人は、同時にいくつか案件を抱えているようだ。

煌は学校の勉強と友達と遊ぶことでせいいっぱいだから想像もつかないけど、碧人の反応からみてただごとではないようだ。

「左様でしたか……。小路の始祖の転生殿ともなれば、穏やかではないでしょう」

「まあそっちはいいんだ。俺が解決するから。話を戻す。月音は母の出自を知らず、お前は誰にもそれを漏らしていない――そうだな?」

断定的な黒藤の言葉に、碧人は逃げられないと悟ったのか、ゆっくりとうなずいた。

「はい……月音に、桜木家のことを話したことはありません。妻も月音が幼い頃に、病で儚くなってしまいましたから……」

父と二人暮らし、とはそういう理由だったのか。

しかし黒藤は、碧人の説明に納得がいかないのか、腕を組んでうなった。

「だがなあ碧人。月音、自分の血がどんなものか知らずに使ってしまっているぞ?」

「……はっ? どういう意味ですか?」

血を知らずに使う? ……煌もはっとした。先ほどの月音の行動を思い出したからだ。

「今日、こいつを狙った妖異に襲われてな。まあ本来の目的は俺か白だろうけど、霊力の高いこの小田切煌をまず取り込もうという算段だったのだろう。そのとき月音が、己の血を妖異に振りまいて撃退――消滅させた。その血をもって妖異を滅する。あれは神崎の特性ではなく、桜木の血の特性だ。末裔がいることは知っていたが、まさかお前の妻になっていたとは……」

――確かに月音が己の血を振りまいたとき、白桜も黒藤もひどく驚いていた。

煌は月音の行動も陰陽師が出来ることのひとつなのだろうかと思って、でも自分を護るために傷を作らせてしまった至らなさの方に心をとらわれていたために、深くは考えていなかった。

「だから月音を陰陽師にはしなかった。そうだな?」

今度は白桜に問われて、碧人は憔悴(しょうすい)した顔でうなずく。