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「……誰かの家っすか?」
白桜と黒藤に連れてこられたそこは、住宅街のはずれにあるごく普通の家だった。
洋風と和風が混ざっている、古すぎず、かといって新しすぎる気配もない。
かかっている表札を見て、煌が「あっ」と、声をもらす。
「月音の家だ。確認しなければいけないことが出来たんだ」
「……? 確認?」
ここに至っても、煌には何も明かしてくれない白桜。
白桜と黒藤の雰囲気にいつもの軽い様子が全く見られないため、煌もどう口をはさんだらいいのかわからない。
あやかしに襲われた直後のことだ。月音に何かしら重大な問題が発生したのかもしれない。
……そう考えると、心臓が刹那、凍るかと思った。
月音は自分を護るために血を流した――未だにあの光景は、背筋が冷える。
……あんなこと、二度としてほしくない。
黒藤が、インターホンを押すのではなく、手のひらに載せた紙切れに息を吹きかけた。
それは光まとう蝶々になって家の中へ飛んで行った。
またしても見てしまった陰陽師の技。
煌はいい加減腹が据わってきた。
月音のことが心配なのは変わらないけれど、実際には今、おそらくどこより安全な御門邸内にかくまわれているのだ。
指の傷は白桜が治していたし、二人が動いているということは、危険なことになる前の先んじた行動のような気もする。
煌が無理やり自分を落ち着かせようと頑張っているとき、バタンッ! と、玄関扉が勢いよく開いた。
そこには、壮年の男性が真っ青な顔で門扉の前にいる白桜たちを見てきていた。
やさし気な面立ちで、ごつすぎもせずやわすぎもせずな体躯の男性が大きな声を出した。
「御門のご当主に小路の若君!? いかがされましたっ」
月音から、父と二人暮らしだということを聞いていたし、面差しに似通ったところがあるから、煌もこの人が月音の父だろうとわかった。
そういえば、月音の家からしたら、御門流と小路流は雲の上の存在、当主たる白桜と次代の黒藤は神様みたいだと、何度も聞かされていたことを思い出す。
となると、この人にとっても白桜と黒藤の来訪というのは衝撃的なのだろう。
「確認したいことがある。碧人(あおと)」
「な、なんでございましょうか……いえ、それより中へお入りください」
黒藤に呼び捨てにされても何も言わないどころか、緊張が増した感のある月音の父、碧人。