月音と煌は、自分には場違いにもほどがあると心臓がはやった。
月音は一応陰陽師流派の人間だけれど、自分では弱小流派と認識しているくらいなので、家も家庭環境も一般的な家庭のそれ。本家というべきは自分の家だし、そこに住んでいる家族は父と月音だけだ。
玄関に出迎えた少女に、白桜は何かを言づけたようだ。
最初は月音と煌を見て驚いた顔をした少女だが、「かしこまりました」と言ってすぐに姿を消してしまった。
白桜に先導されて、邸内を歩く。
完全な和造りの家。
長い廊下にはふすまが連なっている。
先頭を歩く白桜が軽く首を後ろへ向ける。
「うちの人間が何人かいるから、とりあえず客間で待っていてくれるか? 黒と用事を済ませてくるから」
「は――はい」
月音が緊張のあまりしゃっくりをおこしそうな勢いでうなずく。
だが、白桜の斜め後ろを歩く黒藤が白桜を止めた。
「いや白、煌は連れて行った方がいんじゃね?」
「俺!?」
なんで!? と、煌の脳内はまた騒ぎ出す。
場所の威圧感がすごすぎて言葉には出ないが、顔には出る。
目がぐるぐるしている。
黒藤の言葉に、白桜は少し考えるように歩く速度を緩めた。
「そうだな……今なら百合姫も起きているだろうから、月音、百合姫の話し相手をしていてもらえるか?」
「はい!」
月音が白桜の言葉に否やを唱えるはずがない。
煌は、いや俺だけ一緒に行くとかどういう事態だよ俺この場でただ一人の部外者だよ??? ……と、混乱はなおも続いていく。
白桜と黒藤は、月音を客間に置いて出て行った。
煌はわけがわからないまま、そしてなんと抗議すればいいかもわからないため、導かれるままについていくことになってしまった。