「そこで亡くなられた方の、飼い犬さんだね、この子。手を合わせてくれた小田切くんにお礼が言いたくてついてきちゃったって言ってる」
「月音ちゃんすげーな。霊体? と会話できるんだ」
「いや、むしろ私、会話しか出来ないの。本来の陰陽師ならこの子を成仏させるまでが仕事なんだけど、私そういうの苦手で……だから、はい」
と、月音は制服のポケットから紙切れを何枚も取り出した。
「何それ」
「符って言うんだけど、父様が作ったものなの」
長さは手のひらより長く、横幅は手のひらの半分ほどの大きさの紙には、それぞれ違う文様が書き込まれている。
煌にはまったく読めない。
それをずらっと見せる月音。
「私が妖異や異形と会話しか出来ないから、父様が作ったこれで対処してるの。この子には成仏してほしいから……これだ」
一枚抜き取った月音は、それを異形崩れの額のあたりに張り付ける。
するとぽっと符が光に変わって、異形崩れとともに消えていった。
「うわ……何度見てもすごいね……」
「本当ならここまで自分ひとりの力でできなくちゃだめなんだけどね」
そっと、月音は手を合わせる。
どうかあの子が、成仏しますように……。
「でも飼い主思いなわんこなのになんで肩が重いとか出たんだろ?」
「小田切くんが霊媒体質だから、あの子本体じゃなくてあの子についていたよくないものにあてられたんじゃないかな。あの子を送ったことでそれも散ったから、もう大丈夫だと思うけど……」
さらに言うなら、人間に害意がない霊体が必ずしも悪影響を及ぼさないわけではない。
今回は月音が口にした通りの理由の可能性が高いが、体質的に妖異や異形を集めやすい煌には伝えておいた方がいいだろうか……。
それとも、無駄に不安にさせてしまうだけだろうか……。
「それにしても小田切くん、今までよく大丈夫だったね?」