今度は、驚きに満ちた黒藤と白桜の声がした。

二人とも追い返すと言った通り符を手にしている。

これからこの赤い眼のあやかしたちを退治するところだったようだが、それどころではなくなってしまったようだ。

黒藤も白桜も煌たちのところへ駆け寄ってくる。

「お前、何して――」

白桜から戸惑いの声がする。

月音はまだあやかしがいるのを悟って、煌の傍に立ったまま話す。

「こうすれば消えるんですよ。あやかしとか」

その言葉を聞いて黒藤が絶句する。

白桜は一度口を開いたが、すぐに閉じた。

そのやり取りを見ていた煌は、はっとして慌ててカバンからハンカチを取り出した。

無言で月音の指に巻き付ける。

「いや、小田切くん? 大丈夫だよ?」

月音はなんでもない風に言うが、煌の顔は青ざめていく。

目の前で自分を護るために女の子が血を流したなんて、平静でいられるはずがない。

(傷……薬、持ってない。絆創膏? カバンになかったっけ――)

「小田切、離して大丈夫だ」

脳内が慌て散らかしている煌にそう言った白桜が、月音の手を取って小さく何かをつぶやく。

煌が慌て過ぎていたためハンカチはしっかり巻かれておらず、月音の手を取った白桜の手に落ちた。

「わ……」

月音が驚いた声を出す。

煌も、それを見て目を見開いた。

あらわになっている月音の指先の傷。

だが、すぐに変化した。

「快癒(かいゆ)の術をかけた。傷はなくなるから心配しなくていい」

「ありがとう、ございます……」

まじまじと自分の手を見ている月音。

煌の目線もそこにくぎ付けにされている。

これが……陰陽師なのか……。

「黒、一時撤退するぞ」