「それは白に任せた。どうする一匹ずつつぶす?」
人の間で話は進んでいく。
さしもの月音も口をはさめないでいた。
「それやるには場所が悪いだろう。結界から逃げられたら人間に害が出る」
「だよなあ。でもこういう奴らは頭(あたま)がいないから統率もなんもないんだよなあ」
「難儀だが、全力でお帰り願うしかないな。とりあえず、冬芽(とうが)の山に繋いでもいいか?」
冬芽、とまた煌の知らない名前が出てきたが、そんなことを訊いている余裕はない。
「ああ。冬芽にはあとで俺が謝っとくわ」
「手間をかけるが、任せた」
白桜と黒藤の会話の意味がまったく意味のわからない煌。
説明を求めている時間はないので、とにかく邪魔はしないようにしないとと考えたところで――盛大な寒気を感じた。
ぞくぅっ、と。
「!? え、なん……」
鳥肌どころではない。
内臓を貫かれたかと思うほどの悪寒だった。
ばっと振り返ると、無数の赤く光る眼が、煌の背後に現れた木々の影からのぞいている。
そこは白桜たちが結界を張る前から木立だったが、そんなものの気配は感じていなかった。
(え、これ全部妖怪……!?)
それにしても数が多すぎる。
――白桜と黒藤が確認していたのはこいつらのことか。
「小田切くん!」
その赤い眼の視線のすべてが煌に向いたとき、煌の前に月音が滑り込んできた。
同時に、赤い眼が襲い掛かってくる。
白桜と黒藤の視線も刹那、煌に向いた。
しかしその腕(かいな)が煌の前にいる月音のもとへ届く前に、赤い眼のあやかしたちは何かに弾かれるようにはじき返された。
見えない壁でもあるかのように。
「月音! 煌のそばを離れるな! 全部俺らが追い返す!」
「承知!」
黒藤に言われた月音は答えるなり、自分の親指に噛みつき、血を流した。ぎょっとする煌。何をして――
「さっさと消えて」
低い声で言った月音は親指から滴った血を、赤い眼のあやかしたちに向けて振りかけた。
さらにぎょっとすることに、その血を浴びたあやかしは蒸発するように消えてしまった。
「「月音!?」」