黒藤に言われて、煌は憮然とした顔のまま返す。

「好きか嫌いかで言ったら好きですよ。月音ちゃん変わってるけどいい子だし」

その返事を聞いた黒藤は刹那考えるように瞬いてから、にやっとした。

「へー? じゃあ俺がさ、月音の家の事理解してくれて、陰陽師とか関係ない家の子でかなりいい子いるんだけど逢ってみない? って、月音に紹介してもいい?」

黒藤の突拍子もない会話の展開に、今度は煌が大きく瞬いた。

「なんかすげー具体的っすね……。逢ってどうするんすか?」

「もちろん、月音の許嫁になってもらうんだ」

「……はっ!? いいなずけ!?」

日常会話で聞いたことのない単語に、煌は二拍ほど遅れて反応した。

それを聞いた月音が振り返ってくる。

「小田切くん? どうしたの、大声出して」

「い、いや! なんでもない! 気にしないで!」

慌てて首をぶんぶん横に振ると、その勢いで触れてはいけないと悟ったのか、月音はそれ以上は突っ込まずに白桜に視線を戻した。

それを確認した煌は、黒藤に顔を寄せた。

「黒藤先輩! なんでいきなりそんな話になるんすか!」

小声で怒鳴ると、黒藤は先ほどよりもにやにやした。

「いきなりじゃねーよ。前から言ってるだろ? 月音は婿養子をもらって家を繋いでいかなくちゃならないって。そのために許嫁がいると月音がラクになるんだよ」

……許嫁がいると、ラク?

「……なんでっすか」

たぶん煌には考えてもわからない、家関係の話だろうと思って素直に尋ねた。

ただ、ちょっと声がトゲトゲしている。

「神崎流は他の流派と婚姻しない――ってのは知ってる?」

「……昼に月御門から聞きました」

白桜がその説明をしてくれたが、古い家って大変そう。というのが、素直な感想だった。

いまいち実感のない話というか、完全に理解できたわけではない。

「そう。それでも神崎流の血をほしがる術師はいるんだ。陰陽師に限らずなんだけど、もし神崎家につけいられてしまうようなことがあった場合、月音にはもう決まった許嫁がいるって言えれば、割と撃退は簡単になる。もともと、ほかの流派とは婚姻しないという決め事があって、その上で神崎一族も認めた許嫁だと言い張れるから」

黒藤の話も聞いて、なんとなく噛み砕けてきた気がした。