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落ち着いた月音が、教師から言伝の任務を遂行しに戻ったので、今度は煌が白桜をつかまえていた。
「……月御門、月音ちゃんのこと気に入ったろ?」
「うん」
素直な返事が返ってきた。
廊下の窓側の壁に背をついている煌と軽く腕を組んで立っている白桜は、ちらほら視線を集めている。
それに気づいた煌は声をひそめた。
「もしかしてだけど……月御門の、その……理由を知った月音ちゃんを、理解してくれる人だからって、自分の嫁にしたりする気、ある……?」
心配――というより、不安に思ってしまったことを訊いてみた。
白桜の素性は色々と厄介ごとを抱えているようで、月音はそれを知っても白桜の味方になることを宣言している。
女性の花嫁が必要という白桜にとっては、この上ない存在ではないのだろうか。
白桜は煌の心配を悟ってか、目元をやわらかくした。
「ないよ。というか、それは許されないな」
「ゆるされない? 誰に?」
「神崎流に、だよ。簡単な話なんだけど、神崎流は他流派と婚姻を結ぶことはないんだ。俺は御門流の人間だから、まず問題外」
家同士の理由らしい。
そのあたりの感覚がわからない煌は首を傾げた。
「なんで?」
そもそも、月音の家はなんでそんな決め事があるのだろう。
白桜に尋ねても意味はないかもしれないが、今は白桜しかいないので訊いてみた。
「小田切、月音と一緒にいると霊体が寄ってこないって言ってたろ?」
「ああ」
それは本当だ。
月音の言う通り、自分は歩いているだけで憑いてしまう体質をしている。
でも月音に一度助けられて、そのお礼を何かできないかと月音の傍にいるようになったら、何も寄って来なくなったのだ。
月音にそれを言うと、自分と一緒なら寄ってこないだろう、とはっきり言っていた。
そのときは、陰陽師とはそういうものなのか、と勝手に解釈して納得していたが、どうやらそれを違ったらしい。
続く白桜の説明で知った。