「私は、霊感はありますが、出来て幽体妖異と会話ができる程度しかないんです。祓(はら)いの能力がゼロなので、陰陽師修行を積んだこともないのです」
「そうなんだ。予知夢とかはみない?」
「はい……私、父様も呆れるくらい無能なのです。だから父様の次の当主も、私の従弟に決まっています」
「そういうことだったんだ……。でも、月音?」
「は、はい」
改まった白桜の語調に、月音が背筋を伸ばす。
「陰陽師の家系が皆、能力者というわけではないよ。現に、俺のいる御門別邸(みかどべってい)に住んでいて斎陵学園に通っている御門の者も、元は霊感すらなかった者たちだ。それを、陰陽師見習いという段階まで引き上げたのは、それぞれ彼ら自身なんだ」
「―――そう、だったのですかっ?」
「ああ。俺が当主とともにこちらにある御門別邸を継いだとき、声をかけたんだ。ともに来るか? と。そのとき是(ぜ)と答えた者たちだ」
「―――」
「俺についてくると、答えなかった者もいたよ。でもそういう彼らに無理強いする気はなかった。やる気がないから目をかけない、ではなくて、彼らには彼らがやるべきだと思っていることがあるのだろうと思ったから。御門に必要になるのは、なにも能力者だけじゃないんだ」
――御門流と神崎流では、そもそも規模が段違いだ。
陰陽二大大家(たいか)のひとつと、今神崎流を名乗っているのは月音の父の系譜と、そのはとこの系譜だけ。
そんな神崎流からしたら御門流は、比べることすら畏れ多いような存在だ。
だが、その御門流の当主たる白桜は月音に語りかける。
諦めなくていい――と。
「………」
一度口を開き、しかし何も言わずに閉じた月音は、右手を胸のあたりにあてて、視線を下げた。
背の高い煌からその表情は見えなくなってしまったが、伏せる前の瞳は、見たことのない色をしていた。