「そういうことならなんも心配ないよ。この前……ゆかりさん? と四人で出かけたりしたんだけど、普通に楽しかったし」

「縁とも逢ったのか。黒はよほど二人のことが気に入ってるみたいだな」

「縁様、めっちゃ美しかった……!」

あのときの感動がよみがえってきたのか、月音が両手を組んでキラキラした目で中空を見つめる。

それを見た白桜、軽くうなずいた。

「縁とも逢ってるんなら、二人のこと百合姫にも話していいかな? 百合姫、同性の友達ができると飛び上がるほど喜ぶから」

「ゆゆゆ、百合緋様とも……!? どうしよう小田切くん! 私、死期が近いのかな!?」

月音がまた混乱してしまった。

そりゃそうだ。推し二人と一気に友達になるなんて、月音だったら血を吐いていてもおかしくない。

月音が煌の両腕を掴んできたので、煌は出来るだけゆっくりしゃべった。

「とりあえず落ち着こうね、月音ちゃん。月御門、一応言っておくけど水旧も月音ちゃんにとっては推しだから、こんな感じになるよ?」

白桜がどこまで把握しているかわからなかったので、念のため言っておいた。

白桜は、んー、と軽くうなる。

「百合姫もこんな感じだから大丈夫じゃないかな?」

「え……そうなの? この学年って錯乱する人多いの?」

煌は見たことがなかったけど、まさか百合緋も月音と同類だった? 

白桜は苦いものでも噛んだような顔で答えた。

「百合姫は……同性の嫉妬を買いやすいみたいで……人気の誰とかが百合姫を好きだって言っていたとか、そういうあることないことの噂だけで遠巻きされがちなんだ。本人は慣れてしまって、スマホっていう友達がいれば十分、とか言うくらいには傷になってる」

「あー……そら大変だな」

目立つ人は目立つ人なりの苦労があるのだろう。

更に言うなら、男女ともに人気の白桜が常に一緒にいるだけでも妬みを買いそうだ。

白桜は、男女問わず、生徒、教師、果ては保護者までもが一度はときめいたことがある、という伝説も持っている人物だ。

煌は白桜にも百合緋にもときめいたことはないが、毎秒ときめいている人がすぐ近くにいるので、最近その伝説には信ぴょう性があると感じていた。

「その反動で、友達ができると狂喜乱舞するんだ。最近ひとり、同性の友達が出来て」

「だって。月音ちゃん、大丈夫?」

「だ、大丈夫です……!」

ふんす、と鼻息の荒い、めちゃくちゃ気合いの入った返事だった。

煌はくすりと笑いがこぼれる。

今は混乱していないようだし、それはよかった。

それを見ていた白桜から一言。

「百合姫と友達になったら、着せ替え人形にされることは覚悟しておいて」