「月御門、月音ちゃんからそう言われたって聞いたんだけど、月音ちゃんなんて答えたの?」
「逃げられた」
「……月音ちゃんって安定してるね」
一番考えやすい展開だった。
とりあえず、殴ってなくてよかった。
「まさか、面と向かって話していても逃げられるとは思ってなかったから、追ってきたんだ」
「うん、月音ちゃんと友達やっていくんなら、根性いるよ」
「根性は黒で鍛えられたつもりだ。で、返事をもらってもいい? ……月音?」
「はぐっ!」
いささか妖艶な雰囲気で言われたのが月音には追撃だった。
煌が平坦な目をする。
「いやそれトドメ。もー月音ちゃんが月御門にどういう反応するか、わかってるだろ? 月音ちゃんが推しと言ってはばからないんだから」
「ごめん、月音の反応が新鮮で。俺の周りって、顔色うかがってくる奴とか、粗相しないように気にしまくってる奴らが多くて、月音みたいに素の感情を見せてくれる人って少ないんだ」
「その少ない中にいるのが黒藤先輩か」
「あと百合姫な」
つまりそのくらいしか心を開いて話せないということかもしれない。
名家って大変だなーと思いつつ、煌は疑問だったことを口にした。
「今まで月音ちゃんの奇行を咎めなかったのはなんでか訊いていい? 気づいてたんだろ?」
あれだけ盛大な尾行を繰り返されていて、気にならなかったのだろうか。
「初等部から尾行されてたら、さすがにね。でも、神崎の子だってわかってたし、家のことで話しかけにくいのかなあとも思ってたから、無理に俺の方から接触するのはやめておこうって思ってたんだ。そしたら今になっちゃった」
「なっちゃたって……月音ちゃんのことわかってたんだ? その……陰陽師一族だって」
「当然。神崎流は、数は少ないけど優秀な人材が多いからな。碧人(あおと)とも顔見知りだよ」
「あー、月音ちゃんのお父さんだっけ」
「そう。それで神崎流の現当主」
そんな人を呼び捨てにする高校生がここにもいた。
黒藤から聞いていたからショックは少ないけど、やっぱりびっくりしてしまう。
「……ってか月御門、月音ちゃんの反応楽しんでない? ある程度わかってるのにトドメ刺すとか」