煌の疑問に、白桜は軽く顎を引いた。
「……他人の記憶の改ざんなんて、むしろ黒レベルじゃないと出来ないよ。当代で一番力を持っているのは黒だから」
白桜はそう、惜しげもなく黒藤を称えた。
当代最強、とは、月音も黒藤をそう評していた。
陰陽師界隈では共通認識なのだろうか。
「よくそんな人をぼかすか殴れるな」
「一応俺も困ってるから。黒のあれには」
はあ、とため息をつく白桜。
……困った結果、すげえ評判をたたき出している二人だが。
ため息顔から一転、白桜は柔らかい笑みを見せる。
「でも、黒に友達ができるのはいいことだと思ってるから、二人には感謝してるんだ。もし黒のことで困ることあったら言ってほしい。あいつの式にシメさせるから」
「いや温度差ありすぎ。黒藤先輩を擁護したいんだか攻撃したいんだか、どっちだよ」
「難しい年頃なんだ、あいつ」
「月御門のが難しい年頃だよ」
またため息をつく白桜に、煌のツッコミが入る。
「なんか……二人って漫才してるみたい……」
「え?」
気づけば、復活したらしい月音が、いつかみたいに目を皿のようにして煌たちを見ていた。
「あ、月音ちゃ――」
「大丈夫? 月音さん」
「はっ。取り乱しました」
「そうみたいだね。さっきは血圧が、とか言っていたけど、大丈夫?」
「はっ。至って健康です」
……なんだか月音と白桜のやり取りが、優しい上官と忠実な部下のように見える。
煌は、自分が先に月音を案じたかったのを奪われて不満だった。
(いや、月音ちゃんだって月御門のことお慕いしまくっているって言うくらいだし、心配してもらったら嬉しいよな。……でもいまいち嬉しさより緊迫が見えるのは月音ちゃんらしいけど……)
緊張しているのではなく、緊迫している月音。らし過ぎる。
「それで月音さん、俺の友達になってくれますか?」
「ひっ!」
「………」
やっぱそこで悲鳴あげちゃうんだ……月音の生態系には随分慣れた気でいたけど、予想通りの反応すぎてもはや面白い。
月音はそれどころじゃないだろうけど。