「いえ全然健康です! ちょっと血圧あがっただけです!」
事実、心音がめちゃくちゃな速度を出しているので、言ったことには間違いはない。
「いや、血圧急上昇は危ないよ?」
「はい! そ、それより私なんぞに何か御用でしょうか!?」
月音はまだ混乱が収まらず、視界の隅に煌がいないか探してしまう。
煌だったら、この状況を見たらすぐに助けに来てくれるだろう。
「教員室に寄ったら、先生が別に用事出来たからって俺に神崎さんへの言付けを書いた紙を預けて行ったんだよ。それで」
「そうでありましたか! わざわざありがとうございます!」
「いや、あの、神崎さん? 前から言おうとは思っていたんだけど――」
「!!!」
ひっ! も、もしや隠密行動――推し活でつけまわっていたことのクレーム!? 月音の心臓が、今度は緊迫感にはやる。
白桜は、少し困ったように首を傾げた。
「もっと普通に接してもらえるとありがたいというか……あまり家のことは気にしないでクラスメイトとして話してもらえたら、って思うんだけど……」
白桜は困り気味に言ってきた。
……つけまわしていたことへの苦情では、ない? それにひと安心したけど――それはつまり、隠密行動を控えて普通に話しかけていいということだろうか?
すっと――月音の顔から熱が引いた。
「白桜様、ありがたいお言葉ですが、それは難しいです」
落ち着いた声で畏まって言うと、白桜は少し残念そうな顔になった。
「んー……難しい? 家のこと気にしないっての」
月音は白桜の言葉に、いえ、と答える。
「家のことを気にしないのは簡単です。ですが難しいのは、白桜様が私の推しだからです」
「……ん? どういうこと?」
月音の言葉の意味がわからなかったのか、白桜は眉を寄せた。
「不肖わたくし、幼き頃より白桜様と百合緋様を尊敬しまくりお慕いしまくっておりました。最初は確かに、白桜様が御門流の次期当主様だったのもあります。ですが初等部の頃より白桜様をお慕いしまくって物陰から拝見し続けているうちに、白桜様ご自身の輝きに魅せられました。次期当主として厳しくあろうとするお姿。当主となって、しかしその重圧に負けまいとするお姿。……陰陽師の家系に生まれながらそれになれない私にはその世界すら見えませんが、私は白桜様をお慕いしております。――あ、恋情ではないです。『推し』として、お慕いしているのです。ですので、今まで通り過ごしたく思います」
「……そういう理由だったの? 初等部からのアレ……」