煌と月音は、全く知らなかった白桜の秘密と、黒藤の異常行動の理由を知って、二人の間には深海より深く、頂点の見えない山より高い絆があるような気がした。
茨の道だろう。
性別がないと言われる白桜は既に御門流当主で、黒藤はもうひとつの大家(たいか)小路流の次代。
黒藤本人は継ぐ気はないと言っているが、それでは済まない事態がやがてやってくるはずだ。
そんな二人が、どうつながるのか。それとも、このままなのか。
煌は白桜と黒藤の友達として、月音は推している身として、二人のことを見守って――できれば助けになりたいと、確かに思った。
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煌が見つけていたクレープのお店は十人ばかりの列ができていた。
黒藤も縁も文句などつけずに一緒に並んで、わいわい話しながら列が進むのを待った。
さすがに月音も縁に対する緊張もほぐれてきたようで会話ができている。未だに『様』づけは抜けないけど。
月音に二度ほど祓ってもらったことも、道中黒藤たちには話した。
今日はそのお礼だったというと黒藤は「碧人もいい娘持ったなー」と、立場的に陰陽師として格上の存在らしい発言をしていた。
そんな中、煌はふと思った。
そういえば、月音はなぜ陰陽師にはなれないのだろう?
本人は、自分は会話するしか能力がないと言っていたが、それはいわゆる霊感はあるということだろう。
煌は月音の家を知ってから、有名な陰陽師の小説や漫画を少しだが読んでみた。
それには大体『修行』がついていた。
出来なかったことを出来るようにするには、鍛錬は必要だ。
月音はそういうこともしていないようなことを言っていた気がする……陰陽師の素質とかはわからないけど、月音にも何かしら理由があるのだろうか。
「………」
縁の傍できゃっきゃする月音を見て、いつも悩みのなさそうな顔してるよなあ、と思ってしまう煌だった。
実際には家のこととか、煌には考えも及ばない境遇のようだけど。
「煌、縁に妬いてる?」
「……へっ? な、なんでですかっ」
クレープを買った一同は、小さな公園のように整備されている、ベンチのある一画にいた。
「ずーっと月音のこと見てるから」
「そ、そんなことは……」
思わず口ごもる煌。
今、月音は縁の隣に座ってガールズトークに花を咲かせていた。
「お、俺は月音ちゃんといると霊とか寄ってこないから傍にいるだけですしっ」
焦って早口で言えば、黒藤はにやにやした。