月音に問いかけられて、縁は額を押さえていた手を離した。
「一応はね。でも、白ちゃんには立場上女性の許嫁が必要になるし、御門は血統順守だから白ちゃんには子供も必要になるのよね。おじい様の白里さんがそこをどう考えてるかはわからないけど、御門からしたら黒藤は厄介な存在なのよ」
「白も俺のことぶっ飛ばしてきても、御門の家に出禁とかしないから」
「だから調子に乗って黒藤が御門邸に居座るんでしょ」
「さすがにそこまでしてねーよ。仕事の話があるときだけだ」
「はいはい……」
力なく答える縁。
どうやら黒藤が御門の家によく行っているのは本当のことのようだ。
「あの、御門と小路って仲いいのですか? 対立しているとまでは聞いていませんが、陰陽道二大大家同士のなにかとか……」
月音が控えめに言うと、黒藤はまた、何でもない風に答えた。
「互いをライバル視してる奴も中にはいるよ。でも、御門流先代の白里じいさんと、小路の現当主の逆仁(さかひと)じいさんが仲いいから、流派そのものがぶつかることはないな。御門の当主を継いだ白も、逆仁じいさんのことはもう一人の祖父みたいな感じらしいし」
なるほど。そういう縁もあって、黒藤と白桜は幼馴染だったのだろう。
「白桜様が黒藤様をぶっ飛ばしてるのは、本当に照れ隠しなのでしょうか……」
「そこがわからないのよねー。白ちゃんに言い寄る黒藤を、天音ちゃんなんかは排除しようとするんだけど、そうすると白ちゃんが止めるの。……白ちゃんも迷ってるのかもしれないわ。自分の性別の所以を知っていてなお口説いてくるのは黒藤だけだから、どう扱っていいかわからないのでしょうね。男でも女でもない自分に、なんでそんなことを言って来るのか――って」
「男でも女でもない……」
ぽつりと煌がつぶやいた。
白桜の秘密は、ただ、本当は女の子でしたー、で済むものではないようだ。
性別のない陰陽師。
それでいて、当主として次代も残さねばならない。
月御門家内部でどうなっているかは本当にわからないけど、並みの精神力では押しつぶされてしまいそうだ。
「そう。これから先、白から女性(にょしょう)を奪ったやつに動きがあったりしてどうなるかはわからないし、白がどういう道を選ぶかも俺にはわからない。でも、はっきり白に『嫌いだ』って言われない限り、俺は白に愛をぶつけていくつもり。じゃないと白、プレッシャーに押しつぶされて自分のこと投げ出しそうだから」
「……鬱陶しいほど愛をぶつけてくれる存在に、救われるときもあるわね」
縁のため息交じりの感想に、黒藤は「そういうことー」と笑った。