「いや、な、って言われても……月御門って男じゃないっすか……あ、ジェンダーレス?」
煌ががんばって黒藤の言葉の意味を解釈しようとするが、黒藤は、いや、答えた。
「とも違うんだよ。白は母君のお腹の中にいた頃は性別女の子だったんだ。それが色々――陰陽師的な色々があって、女性(にょしょう)を奪われた。だから女性の機能はないけど、男の体でもないんだ」
黒藤のとんでも発言は続く。
煌にはちんぷんかんぷんな話だが、月音は煌よりは理解が早いようで、軽く挙手した。
「ですが――白桜様は男当主として認知されていますよね?」
うなずく黒藤。
「先代当主の白里じいさんが、白を男として育てたからな。白も性別のない自分は周囲に望まれるまま、男当主として生きていくのがいいって思ってる」
そこまで聞いて、煌はやっと頭が追い付いてきた。
「じゃあ黒藤先輩が月御門に言い寄ってるのは、普通に女子を口説いてる感覚なんすか?」
「俺は別に男が好きってわけじゃないから。白のことはずっと女の子だと思ってるし」
「まさかの事実過ぎてむしろ冷静になれます」
月音が、落ち着いた口調でうなずいた。
煌も内心、えーまじかー、と驚いていたが、驚きが過ぎて顔に出てこない。月御門が本当は女の子だったとか……。
「学内に知ってる人っているんすか?」
「今の学園内なら、知ってるのは俺と百合姫だけだ。月御門姓の家人たちも知らされていないはず。白里じいさんが徹底的に隠し通しているからな」
「それを……俺たちに話しちゃっていんですか?」
煌はだんだん不安になってきた。
そんな、白桜の家族が隠していることを自分たちが知ってしまっていいのだろうか。
「二人のことは信用してるから大丈夫だ。言いふらしたりしないだろ?」
「まあ、そんなことする理由もないっすから……でも月音ちゃんは先輩や月御門と同じ界隈の人でしょ? 大丈夫?」
「白桜様の秘密とあらば、墓の中まで持っていきます」
絶対に裏切らない、と、月音の目が語っている。
「な? 大丈夫だろ、縁」
余裕の笑みを浮かべる黒藤に、縁は額を押さえてため息をついた。
「……この子たちだから大丈夫だっただけよ。もうほかの人には言わないでよ?」
「うん。それは約束する」
はあああ、と盛大なため息が縁から聞こえる。
「縁様はご承知だったのですか?」