どうやら縁は式だが世間の風潮にも詳しいようだ。
推しという言葉に戸惑っていない。
「彼氏?」
「彼女?」
月音と煌わが同時につぶやいた。
お互いの耳にその声が入って、ふと、お互いの視線が絡んだ。――のも一瞬で、同時にばっと視線を逸らした。
あらら~? と口をにやにやさせる縁。
黒藤はただ穏やかな表情で見守っている。
「可愛いわあ……黒藤は白ちゃんに全然脈なしだもんな~」
「うるさいよ、縁」
使役の主への悪口を黒藤は流そうとしたが、縁はここぞとばかりに言ってきた。
「これでも小さい頃は白ちゃんが黒藤に懐いていたって言うんだから不思議」
「そうなのですか?」
「ええ。その頃はまだわたし、黒藤の式じゃなかったから天音ちゃんに聞いたんだけど、黒藤のこと『にいさま』って呼んで、くっついて歩いてたって」
「可愛い!!!」
幼き白桜を想像したらしく、月音は九九九九九のダメージを受けていた。
煌は、そんなことが……と、黒藤をぶっ飛ばしまくっているいつもの白桜の姿を思い返してみた。想像つかなかった。
「今のアレになった理由、なんかあるんすか?」
「俺が白に嫁になれーって騒ぎだしたからかなあ」
「………」
なんとも和やかに言うが、そこが原因なのか。
「ちなみになんですけど、つーか聞いて大丈夫かわかんないんで、ダメだったらそう言ってください。――黒藤先輩は男が好きな人なんですか?」
「え? ううん。白が好きなだけ」
「つまり男が好きではなく、月御門個人が好きだと?」
「うん。だって白、女の子だし」
「え……」
「は……?」
黒藤がなんでもない風にとんでもないことを言った。
きょとんとする月音と煌。縁が小声で怒鳴った。
「ちょ、黒藤! それ言うと白里(しろさと)さんに殺されるやつ!」
「大丈夫だって。二人はその話を悪用したりしないから。な?」