「ゆ、縁様……」

「様なんてつけないでいいよー。私、月音ちゃんや煌くんと仲良くしたいわ」

「いえ、今決まりました。縁様は私の推しです……! こんな天女のごときお方がそばにいるなんて黒藤様が羨ましいくらいですっ」

煌、月音、縁、黒藤の順に並んでいるので、煌が胡乱な目で隣の月音を見た。

「月音ちゃんの推し、鼠算式で増えてない?」

「そうなの? よくわからないけど、ありがとう」

煌からツッコミと、縁からは笑顔が返ってきた。

「って言っても、白ちゃんの式に本当の天女がいるからなあ」

「はくちゃん? ……って、白桜様ですか?」

月音が、自分より少し背が高い縁を見上げる。

「そうよ。白ちゃんの一の式に天音(あまね)ちゃんって子がいるんだけど、天音ちゃんは白ちゃんの式に下る前は、『鬼神の天女』って呼ばれていたの。本っ当に美しいわ」

「白桜様の式……それは美しいでしょうね……」

白桜――御門流の最高権力者でもある当主の式とは、一体どんな存在なのだろう。

「一人は生徒として斎陵学園に通ってるぞ?」

黒藤の言葉に、煌が反応した。

「えっ、そうなんすか?」

「うん。二年の、月御門無炎(むえん)。あいつは人間じゃなくて、白の二の式だよ」

「月御門無炎先輩って、黒藤先輩と似てる方ですよね?」

斎陵学園には白桜以外にも月御門姓が何人かいて、皆、白桜の身内だと知られていた。

だが、転校してきた影小路姓の黒藤と、無炎は似通った面差しをしている。

最初に黒藤を見かけたときは別人だとはわかったけど、改めて観察すれば顔の造形は兄弟のようだ。

「無炎は白桜が斎陵学園でうまくやっていくために、ってことで、人型(ひとがた)をとって一年早く入学してたらしい」

「そうだったのですか……」

にや、と月音の口の端が動いた。

それに気づいた煌が先制する。

「月音ちゃん、また推しを増やそうとしてるでしょ」

「うっ……そ、そんなことないよ? 私の学園での推しは白桜様と百合緋様と黒藤様だもん。縁様はプライベートの推しというか」

「手に負えなくならないようにね? 月音ちゃん、推しは男女問わないから」

「……はい」

煌に注意されて、しゅんとなる月音。

白桜の式に対しても、そのつもりだったらしい。

「仲いいのね。でも彼女に推しがたくさんいると、彼氏としては大変でしょう?」