二人の間に色ごとめいたことは一切なかった。
告白なんてものがあって一緒にいるのではないし、ただ一緒に登下校して、学校では月音の推し活に付き合っているだけだ。
「それはないですねー。小田切くんって霊媒体質じゃないですか。で、私の特性上近くにいるとそういうのが寄ってこないからって理由でつるんでるだけですよ。たぶん」
月音の返事に、黒藤は「そうなの?」と首を傾げた。
なぜ「たぶん」と付け加えたかはわからないが、まあ煌も異存はない。
実際にそうだから。
ただ、なんとなく不満を覚える回答だったのだけど、どこを訂正すれば納得がいくのかはわからなかった。
「神崎流の特性って……あれか」
「アレです。まあそういうわけで学校の人の認識も、私と小田切くんは、私の推し活を見守ってくれる優しい友達って感じです。たぶん」
また「たぶん」を付け加えた月音。「そうなんだー」と、特に疑問も持たないらしい黒藤に煌も、「そっすねー」と返しておいた。
「でも、よかったー。この学校で初めての友達だ」
ふわっとした笑顔で、黒藤が言った。
黒藤を見てから、煌と月音はお互いを見た。
お互いクエスチョンマークという意味だ。
「白を見ると吸い寄せられちゃうの、俺の習性だからさ。変人扱いもやばい奴扱いも承知で転校してきたから、友達出来るなんて思ってなかったよ。ありがとな、煌も月音も」
(ふつーにいい人じゃん)
煌の中での黒藤のイメージは間違っていなかったようだ。
気さくで話しやすくて気遣いも出来る。
これであの、白桜への異常行動さえなければ友達なんてどさっとできるだろうに……なんとなく悲しい気持ちになってしまった煌だが、口には出せないことだった。
黒藤と白桜の間に、煌たちには踏み込めないこともあるのだろう。
月音と黒藤の会話を聞いただけでも、自分とは住む世界が違うと感じた。
二人がもともと気のいい性格をしているために煌を仲間に入れてくれたのだろうけど、何も知らない自分がそういう伝統的なことから排他されていてもおかしくはないはずだ。