黒藤が腕を組んでうなりだした。
そういえば、と煌は思い出す。
「黒藤先輩、普通にしてますけど月御門に殴られたとこ大丈夫ですか? マジで骨折だったら……」
「あ、もう治った」
「もう治った!?」
黒藤のあっけらかんとした答えに、素っ頓狂な返事をしてしまった。
さっきの今で骨折が治ったって、なに。
「俺ねー、血筋上回復力めっちゃすげーの。だから白も容赦なく殴ってるくるフシもあるんだけど」
「血筋上と言うと、あの噂は……げふん。なんでもありません」
月音が古典的すぎる誤魔化し方をした。
これは深く訊かない方がいいな、と煌は突っ込むことはやめておいた。
「そうだ。黒藤様、ひとつだけ言っておかねばならないことが」
「なに?」
「私は白桜様×百合緋様を推しておりますので、お二人の間に恋情がなくても、黒藤様を目いっぱい応援することは出来ません……。もちろん黒藤様も私の推しなので、私は物陰からお三方を見守るだけにしようと思います」
堂々たるストーカー宣言。
煌は、それ当人に言っちゃうかな……とこめかみを押さえた。
「いいよ。俺みたいなのの応援なんてしてもらったら月音の立場悪くするだろうし、色んなところから視線感じるのは慣れてるから」
大物か。
煌は月音から、黒藤の評判を当代最強とか聞いているけど、私生活どうなってんだこの先輩は。
そして受けているという視線が、人間のものなのか、月音が言うところの妖異や異形のものなのか……。
「ところでさ」
今度は黒藤が呼びかけてきた。
「二人って付き合ってるの? 煌は将来の神崎家の花婿候補?」
「え」
「は?」
にこにこと問いかけられて、煌も月音も面食らった。