「まあそうなんですよね。うちは一族が少なすぎて血族婚は無理だから、うちのことを理解してくれる方に婿養子に入ってもらって、神崎を継いでいかなきゃです。跡取りになれなくても、血を繋いでいく、それが私の役目っていうか。従弟に子供が生まれるかもわからないから、保険的な意味もあるんですよ」
あはは、と何でもないことのように笑う月音に、煌はびっくりしてしまった。
いつも推し活推し活騒いでいる月音が、実はそんな重大なことを背負っていたなんて。
煌の家は一般家庭で、自分が長男だけど跡取りなんて話とは縁がないし、ましてや家のために結婚しなくちゃいけないなんて考えたこともなかった。
――改めて思う。陰陽師の世界というのは、自分には全く未知の世界だと。
でも、だからこそ、ゆるされるならば知っていきたいと思った。月音のことを――月音が大事にしている世界を。
「あ、あのさ」
「うん?」
「どしたの?」
少しだけ声を張り上げた煌に、月音と黒藤、二人の目が向く。
煌はこくりと唾を呑み込んだ。
「俺だけ完全に部外者だけど、もし俺が知ってもいい話があったら、聞きたいなー……なんて」
だめだろうか。自分が望まれているのは、あくまで二人のツッコミ役としてだけだろうか。
ある種の賭けだったが、煌の言葉を聞いた月音も黒藤も目を輝かせた。
それにまたびくっとしてしまう煌。
「いいよいいよ! 守秘義務的なことは話せないけど、陰陽師のアレコレ教えちゃうよ!」
「煌も色々憑きやすそうだから、自衛のためにも知っておくとお得だな!」
「ですよね! 私も小田切くんにどこまで話していいか迷ってたんですよー。歩いてるだけで憑けてくる人だから」
何やら月音と黒藤が意気投合してしまった。
この二人って白桜大好きから始まって、似た者同士なのかもしれない。
……煌、自分から振った話だが少々ぶすくれた顔になっていた。
そんなことに月音は全く気付いていないが、煌が霊媒体質であることを初見で見抜いた黒藤に、月音はちょっとだけ驚いていた。
最近の煌は月音と登下校も一緒で、何かに取り憑かれてはいないのに。
これが……当代最強と呼ばれるお方……。
「でも、そうだなー、何から話せばいいかなー」