「占(せん)に出たのですか? 失礼ながらまさかとは思いますが……そのような方が」
月音の声が強張った。
煌にはちんぷんかんぷんの言葉の応酬が続いているけれど、ここで離れる気にもならなかった。
月音から離れようとは思わなかった。
「そこまで教えらんないんだけど……まあ、小路(こうじ)にとって悪いようにはなんないよ。神崎流に影響がいくこともないだろうし」
「小路流の当主専任に関して、他流派のわたくしどもは口をはさむ立場にありませんのでなんとも申し上げられませんが……相当反発を喰らうのでは?」
「そらーもう大いに喰らってる。元々、俺が当主になるのに反対の奴もいるから、そいつらは勢いづいて元気そうだよ。いいことだ」
果たしてそれがいいことなのかと疑問な煌だ。
月音は瞳を細めた。
「白桜様もそれをご承知で?」
「うん。理由も知ってる」
「左様ですか……」
「なあ月音? そんなことよりもっと砕けて話していいよ? 俺も学校にまで家の事持ち込む気はないし、月音と煌とは友達になりたいし。まず敬語やめてほしい」
「先輩後輩の間でも敬語はあっていいと思いますが……」
「えー、じゃあその畏まったしゃべり方やめて? 煌がさっきから驚いた顔してるから、普段はそんな喋り方じゃないんだろ?」
な? と黒藤に話を振られて、つられて煌は「あ、ハイ……」とうなずいた。
「小田切くんに言われては……。わかりました。でも、黒藤様とはお呼びさせてください。黒藤様も私の推しですから」
「うん、なんかよくわかんないけど、わかった」
ほがらかに答える黒藤。
煌が話しかけてからのやり取りで、煌の中での黒藤の印象は変わっていた。
白桜に殴られに行っているのかと思うほど、痛い目に遭わされても言い寄っている黒藤だったが、話してみれば気のいいというか邪気のないというか、とにかく『いい人』という印象になった。
学内では好奇の目で見られているので、これはどうにか修正したいな、とまで思った。
「……ん?」
ふと、手にしたままだったスマホへ目をやると、通信アプリのグループ招待の通知が届いていた。
「え。つ、月音ちゃん? なにこの謎のグループ名……」