「……いえ、私に陰陽師としての能力はありませんので……」
「じゃあ今スマホある? 連絡先交換しよう?」
「は、はいっ」
黒藤に文句はあっても、推しだと公言するだけはある。
黒藤と連絡先の交換をすることになって顔が上気している。
「煌も教えて?」
「あ、はい」
月音と黒藤がスマホで登録し合ったあと、黒藤が煌に話を振ってきた。
黒藤とやり取りしていると、何故か月音が目を皿のようにして見てくるのに気づいた。
「月音ちゃん?」
「……私、小田切くんの連絡先知らない……じー」
なんでそんな不満げな目で見てくる。しかも音声つき。と煌はツッコみたくなったけど、これはチャンスでは?
「え、俺も月音ちゃんの連絡先知りたいんだけど。教えて?」
「うん」
なんだか平坦な目をした月音の連絡先をスマホに入れて――なんとなく、話題を変えなきゃと思った。
「そ、そういえば黒藤先輩って月音ちゃんのお父さんのことも知ってるんですか?」
黒藤は先ほど月音に対し、『碧人のお嬢さん?』と声をかけていた。
「うん。同業者だし」
「でも、当たり前ですけど年上なんですよね……?」
名前を呼び捨てにするとか、相当親しいのだろうか。
「あー、俺あんまそういうの気にしてないってか、年上のことも立場上呼び捨てにすることを強要されてきたからついクセで……気を悪くしたらごめんな? 月音」
「いえ。小路流次代の黒藤様ともなれば、他流派に侮られてはなりません。そのくらいの分別はついておりますのでご心配なさらずに」
「あとその『小路流次代』って呼び方はやめてもらってもいい? 俺、跡継ぐ気とか皆無なんだよね」
「そうなのですか? ですが、黒藤様が後継者ということは、我ら界隈では公然の事実かと……」
小首をかしげる月音。黒藤は気の抜けた顔になった。
「それは承知してるけど、そろそろ俺以上に後継者に相応しい子が現れそうなんだよね」