「それはないだろ。だってあいつは――っと。これ学内で言ったら白里じいさんに殺されるんだった。まあ、ないない。白と百合姫の間にあるのは友情だよ。とても純粋な、幼馴染としての」
黒藤があまりにあっさりと言うものだから、月音は返す言葉に詰まった。
そんなことありません――というには、月音は白桜のことを知らない。
白桜と黒藤が幼馴染というのも、陰陽師界隈では有名な話だ。
月音がいくら物陰から白桜をうかがっていても、幼い頃から白桜のことも百合緋のことも知っている黒藤の方が、段違いに説得力がある。
「ところで、俺も月音の推し? なの?」
黒藤がちょっと困ったような笑顔で問うと、月音は大きくうなずいた。
「はい。影小路の黒藤様は私にとっては雲の上のお方です。陰陽師の家系の者として、お慕いしまくっております」
「それにしてはさっきすげーこと言われた気がするんだけど……」
黒藤がなんとも言えない顔で返すと、月音はこぶしを握った。
「だって……! だってですよ。日々白桜様と百合緋様がお二人で過ごされているところを物陰からうかがうのが私の趣味だったのに。突如現れた黒藤様によって白桜様と百合緋様のラブラブ時間がなくなってしまったのです……! ちょっとくらい怒ってもいいじゃないですか」
「いや黒藤先輩が怒られる筋合いないと思うよ? 月音ちゃんは自分の言動が一歩間違ったら逮捕されるってことをよくわかってね?」
「く……っ、小田切くんが正論過ぎて反論できない……」
自覚があったのか、と内心ため息をつく煌。
自覚なしにあの言動かましているよりは……マシか? いや、そんなにマシでもない気がする……。
月音が表情を改めた。
「黒藤様は白桜様がお好きなのですよね?」
「うん」
「それで白桜様と百合緋様は恋仲ではない、と?」
「そうそう」
「……黒藤様に勝算はありますの?」
「ない。でも俺は白を諦めない」
「白桜様にお許嫁様が出来たら……」
「そんときはそんときだな。白と相手が相想い合っているなら諦めることも出来るかもしれないし、無理やり結ばれたものだったらぶっ壊すかもしれない」
にこやかにさらっと言ってのける黒藤。
煌は、黒藤の白桜への想いが本物なのだとわかった。
「……左様でございますか」
「うん、そんなとこ。あ、月音って式使える?」