「一年の小田切煌っす」
「きら? って、どの字?」
「煌めく、で煌っす。あ、俺勝手に影小路先輩のこと知ってたんで声かけました」
「黒藤でいいよ? そっちのがラクだし」
「じゃあ黒藤先輩? マジでやばくねっすか? 月御門やりすぎ……」
「白のあれは照れ隠しだから」
笑顔で、顔の前で手を振る黒藤。
「照れ隠しって……」
それで肋骨を折りに来る白桜、怖い。
ふと、黒藤の視線が泳いだ。
「煌、あの子って知ってる?」
「え? ……月音ちゃんっすか」
黒藤が、壁の影に隠れてこちらを見ていた月音に気づいたようだ。
月音も、白桜たちを追うと言っていたのになんでまだいる? と思ったが、この黒藤も月音の『推し』だった。
そしてさりげなく名前呼びされた。
黒藤の視線を受けて、月音は慌てて体全部を壁の影に隠した。
「ねー、きみ、もしかして碧人(あおと)のとこのお嬢さん?」
本当にもう回復したらしい黒藤が立ち上がって、月音の傍へ行って問いかけた。
半瞬遅れて煌も後を追う。
「あおと?」
煌がつぶやくと、月音は観念したように立ち上がって姿勢を正した。
「父様の名前です……。ばれてるんですね……」
「うん。神崎の子だよね?」
にこやかな黒藤の言葉に、「はい」と顎を引く月音。
真剣な眼差しをしてから、深くお辞儀した。
「お初にお目にかかります。影小路の黒藤様。神崎流当主が娘、月音と申します」
「そんな畏まらなくていいよー。俺のこと知ってるんだったら、黒藤って呼んでね。月音」
「はい。勝手ながら黒藤様とお呼びしております。私ことは神崎の小童(こわっぱ)でもなんでもお好きにお呼びください」
「いや、白と同い年の子を小童とは呼ばないよ。月音でいい? 煌みたいに「ちゃん」づけする?」
「月音で構いません。――僭越(せんえつ)ながら黒藤様。ひとつだけ申し上げてよろしいでしょうか」
「うん? なん?」
煌が、陰陽師の家系同士にしかわからない話かな……と、聞いていいものか迷っているうちに、ギンっと月音の視線が鋭くなった。