黒藤をぶっ飛ばした白桜が百合緋を伴って歩いて行くのをこそこそと追っている月音と、その後ろを特に隠れもせずについていく煌。

この一週間、奇行を繰り返す月音に同行していた煌は、いつの間にか月音の保護者枠になってしまった。

月音の同行も『お守』扱いされている。

「月音ちゃんと推し活中―」

煌は友達に適当に答えていく。

月音がそれに関して言動をはばからないため、月音の白桜・百合緋推しは皆が知っていることで、この奇行も推し活で通ってしまう斎陵学園だった。

(俺としてはそろそろ影小路先輩に話しに行きたいんだけどなー。でも月音ちゃんの隠密行動? の邪魔もしたくないし……)

人と会えばすぐに友達になってしまうタイプの煌が、黒藤とも友達になりたいというのは嘘やその場しのぎではなかった。

既に男色だと言われている黒藤だけど、煌から見ても異常行動を起こしているのは白桜に対してだけで、そして常に異常行動を起こしている月音と一緒にいることが多いため、黒藤程度では異常行動とも思えない。

優しそう、というよりは、頼りになる人、というのが今の黒藤のイメージだ。

白桜は清廉というイメージ。

黒藤をぶっ飛ばしているけど、何故かそのあたりは煌の中では変わらなかった。

(そろそろいいかな)

「月音ちゃん、俺ちょっと影小路先輩んとこ行って来るね」

「はーい。私は白桜様の方見てるね」

月音に言い残して、倒れ伏している黒藤のところへ駆け寄る。

「あのー、影小路先輩? 大丈夫っすか?」

白桜に殴られて回廊に倒れたままの黒藤。

煌はその脇にしゃがみこんで声をかけてみた。

「う……肋骨折れたかも……」

「大丈夫じゃないっすね! 救急車呼びます!」

「いや、それは大丈夫。俺、丈夫だから」

宣言通り、むくりと上体を起こす黒藤。

煌はいやいや、と首を横に振った。

「骨折は丈夫で片付くもんじゃないっしょ。さすがに月御門にクレーム入れましょうか? 俺、同じクラスなんで」

「あ、そうなの? なにくん?」