「うーん、白桜様が『黒』って呼んでたし、見たことない先輩だったし……」
「俺ちょっと訊いてくるね。月音ちゃんは教室戻ってて」
「へっ? 訊いてくるって誰に――足早っ」
月音に問いをゆるさず、煌は校舎の中へ走って行ってしまった。
「………」
一人になって改めて考える。
黒藤と思しき青年は、間違いなく白桜に口づけをしていた。
だが、あれが二人の挨拶――ってことはないな。白桜様、ぶっ飛ばしてたし。
月音は頭をひとつ振って否定する。
影小路黒藤は名前だけが一人歩きしているというか、当代最強と呼ばれて、誰もそれを否定する者を聞いたことがない。
それくらいの強者ということだろうけれど、だから月音も姿も知らないけど名前と実力は知っている、ということになってしまっているようだ。
うーむ。月音は悩む。
自分が陰陽師として下っ端にすらならない場所にいるので今まで心置きなく心のままに推し活を楽しんでいたけれど、黒藤が白桜を狙っているとなれば今まで通り物陰から様子をうかがうのは難しくなりそうだ。
黒藤が白桜にアタックする→白桜がぶっ飛ばす→黒藤を放置して白桜がどっか行ってしまう……萌えない! 今までの、白桜と百合緋の仲睦まじい様子を見てによによしていられた日々がすでに懐かしい。
「くそう……っ、なんて伏兵なんだ、黒藤様……!」
これまでのほんわか推し活ライフ、カムバック!!