高校生活は長いようであっという間だった。楽しい時間ほど早く過ぎるというのは事実らしい。
 とりわけ彼と出会ってからの一年は目が回る日々だった。

 卒業証書が入った筒を片手に、私は校門横の壁に体重を預ける。
 塀のすぐ向こうにはまだ咲く気配のない桜の木が寒そうな恰好でそびえたっている。卒業と言えば桜を連想するのだけど、現実はただただ枯れた枝葉が(むな)しく伸びているだけだった。

 それでも寂しさを感じないのは他の生徒や小綺麗な恰好をした保護者たちの賑やかな声が周りに溢れているからだろうか。あるいは卒業式という特別な日がもたらす空気感が理由だろうか。それとも――。

(りん)!」

背後から私を呼ぶ声。反応するように口角が上を向いた。振り返ると、私より頭ひとつ分も背が高い彼――成世一(なるせはじめ)が立っていた。

「悪い、先生たちと話してたら遅くなった。寒くなかったか?」
「ついさっきまで中に居たから今は平気」
「なら良かった。あれ、凛の母さんは?」
「先に車で待ってるよ。ちょっとはじめと話すって言ったら『彼氏くんとの時間を邪魔しちゃ悪いからね~』ってニヤニヤしながら引っ込んでいったよ」
「それならあんまりダラダラは喋れないな。待たせちゃ悪いし」