「その男の子ね……事故で亡くなってるの。いつも彼が私宛の手紙に『この手紙をキミへ』と書いて送っていてくれていたから、ののちゃんから手紙を初めて見せてもらったときは本当に驚いたわ。またこうして彼からの手紙が届くなんて、いまだに信じられない……」
「そんなことって……。それに、『キミ』へって君江の『君』だったの?」
「えぇ、彼は私のことずっとキミって呼んでくれていたから……」
君江の皺皺の笑顔が一瞬で恋する少女の顔に変わる。
「ほんと信じられないわよね、亡くなった人から手紙を貰うなんて」
「うん……でも、もしそうなら……死んでからもおばあちゃんに手紙を送ってくれるなんて、その人もおばあちゃんのことすごく好きだったんだね」
 言葉にしながらも未だ半信半疑だ。君江宛に亡くなった人から手紙が届きそして君江が書いた手紙にまた、亡くなった人から返事がくるなんて。
「ふふ……そうねぇ、私も本当に大好きだったから。また会いたいわ」
君江は、そう言うと手元の便箋にボールペンを走らせていく。そして便箋を三つ折りにして封筒に仕舞うと私にそっと差し出した。
「ののちゃん、彼への手紙また預かってくれるかしら? 」
「うん、分かった。またお返事がきたら持ってくるからね」
 その時、私の頭がふいにあったかくなる。
「ののちゃんも本当に大きくなったわね、心が優しくて笑顔がとびきり可愛くっておばあちゃんの自慢の孫娘よ」
 君江はやせ細った掌で私の頭何度も撫でると目じりを下げて微笑んだ。
「ののちゃんの幸せをいつも願っているから。ののちゃんがいつか好きな人に出会って恋をして、幸福に満ちた人生を歩んでいきますようにっていつも祈っているから」
「……おばあちゃん、ありがとう。おばあちゃんも……私の花嫁姿みるまでまだまだ元気でいてね」
 君江は皺くちゃの笑顔で私をぎゅっと抱きしめた。そのぬくもりは幼い頃と何も変わらないのに君江が痩せて随分小さくなっていることに涙が滲みそうになった私は、涙を溢してしまう前に満面の笑みを返して病室をあとにした。