私は急いで投函ボックスの前に戻ると手紙を持って、君江のいる病院へと駆け出した。
(おばあちゃんに会いに行くってどういうことだろう)
 病院へ向かう足は速足から駆け足になっていく。
(どうしよう、あの男の子が死んでもおばあちゃんに未練があって手紙のやり取りをきっかけにおばあちゃんをあっちの世界に連れていこうとしてたとしたら)
 嫌な汗が額に纏わりついて喉がカラカラになってくる。

──プルルルッ……プルルルッ
 病院のエントランスを潜ろうとした時だった。制服のスカートの中のポケットが震える。飛び上るようにしてスマホを引っ張り出して液晶画面をみて凍り付いた。電話の相手は父だった。私はスマホをスワイプするとすぐに聞こえてきた父の声に体中が震えた。


 そこから病室までどうやって歩いていったの記憶にないが、気づけば私は君江宛の手紙を握りしめて病室の扉前に立っていた。震える手で扉をそっと開ける。そこにはあの男の子からの手紙を抱きしめたまま君江が安らかに眠っていた。
「お……ばあちゃん……」
 目の前の現実がうまく心で消化しきれない。この間まで嬉しそうに手紙のことを話してくれていたのが嘘みたいだ。もう大好きだったそのあったかい掌で頭をなでてくれることも抱きしめてくれることもない。目の前が歪んで言葉にならない想いは、まあるい雫となって無数に落ちていく。私はその場に崩れ落ちると身体の水分が全部無くなるほどに声をあげて泣いた。