俺に母親の記憶はない。
気づけば酒かっ喰らって殴るだけの父親しかいなかった。
こいつがひでえヤツで、女のヒモ。
たぶん、俺の生みの親もそんな相手の一人だったんじゃないか。
なんで俺がこいつのもとで暮らしてるのかはわからなかったけど、まあそんなサイテー野郎は、そのうち借金に首が廻らなくなって首吊って死んだ。
俺はその、いわゆる第一発見者。
つっても四歳のガキだったけど。
それだけのこと。
そのまま生きてたっていずれ俺が父親を殺していたかもしれない。
俺が殺すより先にてめえで死んだってくらいだ。
その後は施設に入れられたんだけどうまく馴染めなかったところを、龍さんと出逢った。
そして引き取られて――たぶんすげーいろんな障害を乗り越えて、龍さんは俺を連れ出してくれたんだと思う――龍さんのじいさんの家で暮らすことになった。
山間の村、天龍(てんりょう)。
そこには先客がいた。
神宮流夜。歳は俺の一つ下で、まー感情表現に乏しいヤツだった。
なんでも生まれてすぐに家族を殺されたらしい。
そして親戚をたらいまわしにされていたところを、龍さんに見つけられた。
流夜と同じ年の春芽吹雪は天龍の生まれで、家族はある。
こいつがまたきれーな顔してた。女の子みてーな。
ふゆの両親もきょうだいも健在で仲が悪いわけじゃないんだけど、ふゆはじいさん家で暮らしてるような感じだった。
ふゆ用の布団もあったし。
なんか住民が仲良しな旧い村はそれが通るらしい。
俺もよく道歩いてるだけで採れたて野菜とかもらった。
そしてふゆの叔母の春芽愛子。
じいさんとは喧嘩しかしねーくせに、実家に帰ってるといつもじいさんとこに顔出してた。
理由はそのうちわかった。『龍生先輩』と慕う龍さんに逢いたいようだった。
これが俺の、家族たち。
じいさんは俺が高校に入った歳に死んじまったけど、親父であり祖父さんであり、まあ色んな役目をしてくれた存在だった。
超・性格問題人間だったけど。
りゅうとふゆはやっぱ兄弟かな。
龍さんはたまに帰って来ては構ってくれたから、遠洋漁業に出てる親父みてーな感じ?
愛子は……ふゆの叔母でしかねーんだけど。
それだけで満足すればよかったんだ。