桃子は、恐怖に呑まれたように顔を強張らせた。

ごめんなさいね。これでも、在義も育てた身なのよ。

「わたくしは、お前とお前の娘を強く育てます」

「………え?」

「お前は在義の妻、なのでしょう。そしてお腹の子は在義の娘。並の気概では潰されてしまいますよ。だから、わたくしは、お前に厳しいことも言うし、辛くあたることもあるでしょう。ですが、決して嫌っていたり排除するためではないと承知していなさい。そして、お前の娘にも同じように接します。――世間に、お前たち二人を認めさせます」

在義が仕事を辞めた理由は、近所には知られてしまっている。

桃子が奇異の瞳で見られていることも知っていた。

だから、それに負けないように、圧し潰されないように。

「強くなりなさい。在義とともに、いたいのなら」

桃子は少ししてから、唇を引き結んで肯いた。



桃子と、生まれた咲桜は、それは頑張っていたわ。

夜々子との仲もよくて、桃子とわたくしも険悪にはならなかった。

ただ、咲桜への対応は少し困っていました。

不甲斐無くもわたくしが、厳しくし過ぎるのと、でも甘い顔は出来ないのとの狭間にはまってしまって、嫌われていると思わせてしまったみたい……。

それでもわたくしにあったのは咲桜を在義の娘として強く育てること。

それを第一に考えていた。

その狭間をぶった切ってきたのが、在義の後継者にして、在義が咲桜の相手にと認めた人。

……とんだ化物だわ。

でも、彼ほど強くないと……咲桜を護り切れなかったかもしれない。

愛し続けられなかったかもしれない。

咲桜が生きていることを捨てなかったのは、好いたのが彼だったからにほかならない。

桃子が逝って、もう何年かしら。

お前の娘は、強すぎるくらい強くなったわ。

まったくお前は、この年寄を置いていってしまうのだから。

でも、まだ迎えに来ては駄目よ。もう少し待っていなさい。

もうすぐ、お前の二人目の娘が生まれるわ。

咲桜が夜々子の娘なら、夜々子の娘も、お前の娘でいいでしょう。

お前の家族は今日も笑っているわ。お前が愛したもの、総てが光の中よ。

だからお前もずっと、その中にいなさいね。