そこは土のところだったけど、降ってきたそいつは、足を痛めた様子もなくすっと立ち上がった。
女子生徒、だった。
「猫柳くんおはよう! 昨日は助けてくれてありがとう!」
「あ、おお……?」
いきなりなことに、俺は肯いてしまった。完全に呑まれていた。
「これ、お礼にはなんだけど、お弁当。よかったら食べて」
「あ、ありがとう……?」
「うんっ」
じゃーねー! と大きく手を振って、今度は玄関口に向かった。
そしてちゃんとそこから校舎に入って行った。
俺は礼の理由も渡されたものをどうするかも、一気には考えられなくて少し立ち尽くした。
それがクラスメイト、三宮光子だとはすぐにわかった。
けれど、彼女から礼を言われる理由はわからなかった。
昨日は日曜日で彼女には逢っていない。なんかの間違い? 勘違いか? それとも人違い?
俺が頭の中をクエスチョンマークで埋め尽くしていると、エクスクラメーションマークを常にぶっ飛ばしているような幼馴染が肩を叩いて来た。
「龍生? どうした」
「あ、いやなんか……三宮が降って来てこれ渡されたんだけど……」
「大きな声で言ってたから聞こえた」
「俺、昨日あいつに逢ってねえんだけど」
俺が困り切って眉を寄せると、在義は「ああ」と肯いた。
「三宮じゃなくて、槙島じゃないか? ほら、昨日」
「………ああ」
三拍ほどおいて、在義の言うことがわかった。
昨日、俺は街には出ていた。その時に通りすがりに万引きの嫌疑をかけられていた人を見つけ、それが思いっきり冤罪で、口を挟んだのだ。
結果、店員の思い違いだとわかってその人は解放された。それが彼女の友人、槙島だった。
そう言えば俺を見て驚いた顔してたし、名前も呼ばれた。
よくあることだったからそのまま離れたんだけど、たぶん彼女の言う「助けてくれて」の対象とは槙島のことなんだろう。
……礼する幅が広ぇな。