「でしょう? だから、在義兄さんが私の生き方に口を出すなんてお門違いなの」

「……そうだね。余計なお世話だった。ごめん」

「いーえ。私も最近挙動不審だったし、お相子(あいこ)。……在義兄さん、一つお願い聞いてくれない?」

「夜々ちゃんの? なに?」

つま先を在義兄さんに向ける。

座っている在義兄さんに目線を近づけるために、後ろ手を組んで軽く身をかがめる。

「桃ちゃんと、幸せになって」

「――――夜々ちゃ――」

「私、桃ちゃんが大好きなの。だから、桃ちゃんにはとびっきり幸せになってほしい。在義兄さんなら、叶えてくれるわよね?」

桃ちゃんとは出逢ってまだ少しだけど、一生の親友にもなれそうな感じがするの。

……世界の誰より幸せになってほしい。

在義兄さんは一度、口を開いたけど閉じて――それから、「もちろん」と肯いてくれた。

これが私の前日譚。

私が、ちゃんと『私』を生きると決めた日。



それから咲桜ちゃんが生まれて、私は桃ちゃんと咲桜ちゃんと、とっても幸せな日々を過ごしていた。

これはある、在義兄さんも一緒にいた日なんだけど、

『はあ~、桃ちゃんも咲桜ちゃんも可愛すぎる……尊い……二人とも私と結婚しましょう!』

と、咲桜ちゃんを抱っこする桃ちゃんにぎゅうと抱き付いて、在義兄さんを泡食らわせたりしたわ。

『や、夜々ちゃん⁉ さすがに冗談が過ぎると言うか――』

『冗談じゃないわ。在義兄さんはもう私の幼馴染じゃないわ。桃ちゃんと咲桜ちゃんを賭けたライバルよ!』

と、勝手に宣言して更に混乱させたりして、それは幸せな毎日だったわ。

……けれど、桃ちゃんは頑張って生きすぎていたのね……。突然、儚くなってしまった……。

親友と思っていた子を喪った喪失感……あどけない咲桜ちゃんが残されて……。

在義兄さんの部下だったマナちゃんも加わって、一緒に咲桜ちゃんの母親代わりになったけれど、夜、一人で寝ているときは淋しくてたまらなくなった。

桃ちゃん……桃ちゃん……なんで死んでしまったの……咲桜ちゃんと在義兄さんを置いて……。

そんな言葉ばかりが頭をかけめぐっていたわ。

桃ちゃんは天命を生き切ったと言うのに、悔しくて悔しくて仕方なかった。

桃ちゃんは、もっと生きるべきだったのに……。