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そんな、在義兄さんが世界の中心だった私を、決定的に壊すときは突然訪れた。

それは私が高校生になった年のこと。

「夜々ちゃん、この子が俺の奥さんになる人だよ。桃子っていうんだ」

そう言って、在義兄さんはとんでもない美人さんを連れて来た。

陽の光に透けてしまいそうなほど色が白くて、でも背は高くすらりとした体躯。

儚げな美貌の美人さんは、私を見て不安そうな顔をしていた。

え……待って待って。在義兄さん、お付き合いしてる人なんていたの? 私、知らないわよ?

「桃子、です……。はじめまして。夜々子さん」

美人さん――桃子さんは、声も透き通るほど綺麗だった。

この人が………。

何故か、私は笑みを浮かべることが出来た。

「はじめまして。朝間夜々子です。桃子さん……桃ちゃんって呼んでもいいかしら?」

私が問いかけると、桃子さんは安心したように口元をゆがめた。

「はい……っ、もちろんです」

「私も、在義兄さんは『夜々』って呼んでくれてるから、そう呼んでもらえたら嬉しいわ」

「夜々、ちゃん……」

このとき、私は桃ちゃんの年齢が不明なことなんて知らなかった。

でも、そう呼ぶのがいい気がして、提案していたのだと思う。

私と桃ちゃんはすぐに友達になれた。

……どうしてかしら、桃ちゃんを恨んだことが、本当に一度もないの。

清々しいほど、私は桃ちゃんが好きになった。

……反対に、在義兄さんに対して、昏い感情が募っていくのを感じながら。

箏子母さんが、在義兄さんの奥さんに、桃ちゃんを認めたことも知っていた。

私に、在義兄さんの結婚に関して言うことはなかったけど。

紹介されたその日、華取の家で、在義兄さんと桃ちゃんと、三人で話すことがあった。

桃ちゃんが身元不明であること、お腹には子どもがいたこと。在義兄さんは、その子の父親になるのだということ。

隠しておいた方がいいそんなことを、全部話してくれたことが、在義兄さんが私を信頼してくれている証拠だと思った。

話を全部聞いて、私は桃ちゃんの前に膝をついて両手を握った。

「桃ちゃん、元気な赤ちゃんを産んでね。私、逢いたいわ。桃ちゃんと在義兄さんの赤ちゃんに」