私はこの子を愛せるわ。
「兄さん?」
ひょいっと玄関を覗くと、在義兄さんが箏子母さんと話しているところだった。
わたしの耳は在義兄さんの声ならどこでも拾う。
「あ、おはよう夜々ちゃん」
朗らかに微笑むのはお隣の華取在義兄さん。
年は離れているけど、兄さんからすると私は幼馴染という認識らしい。
私は勿論お慕いしまくっている。恋愛的な意味で。
「在義が警官になるとはわかってましたけど、キャリアの方になるとはねえ」
在義兄さんと話していた母さんが、一方の腕に頬杖をついて感心している。
兄さんは今年で二十三歳。一方、私は十歳。
これで私が告白なんてしたら、兄さんが犯罪者になってしまう。
だから今は言わないけど……十六くらいになったら告白を企んでいる。
その年まで在義兄さんに奥さんや恋人がいない保証はないけど……私の気持ちの問題、かな。
在義兄さんは見た目爽やかだし、現役でキャリア試験に合格するほど頭もいい。
女性から見たらお近づきになりたい存在だよね。
でも兄さん、学生時代も恋人とか全然作らなくて。
中学高校生の頃は龍生兄さんも華取の家に下宿していたから、龍生兄さんとばかりつるんでいたっけ。
……と言うか、在義兄さんの行動力についていけるのが龍生兄さんだけだったとも言うわ……。
傍目にはお婿に最高な在義兄さんだけど、かなり大変なお相手であることは覚悟上でお慕いしまくっている。
箏子母さんも、わたしが在義兄さんを好きなことは知っている。反対とかもされてない。
「兄さん、今日からお仕事?」
「うん。夜々ちゃんも学校、気を付けてね」
「うんっ」
在義兄さんのお父さんとお母さんは、もう亡くなっている。
在義兄さんが大学生の頃のこと。それから、兄さんはずっと一人暮らし。
兄さんの就職先は、警視庁。
国家試験に合格した方だから、幹部候補のキャリア組、というやつらしい。
同い年の龍生兄さんはノンキャリ、という現場の刑事になるらしい。
――いつか、在義兄さんに相応しいって思われるような、そんな女性になりたい。
仕事へ向かう在義兄さんの背中を見送って、改めて、そう思った。