「お前だって雲居のことを振り続けていただろう。大差ない」
「私と神宮が大差ないってんですか⁉ それは嫌です!」
「話は最後まで聞け。あたしが言ったのは、咲桜を泣かせてるのが一緒だって意味だ。見ろ、お前の旦那まで挙動不審になってるじゃないか」
と、ゆく当てのない手を出した格好の俺を、涼花さんが示した。
「………ごめん、咲桜」
「いえ……流夜くんが絆さんを、傷つけたことは、聞いてます……こちらこそすみませんでした」
そしてりゅうの代わりに謝っちゃう咲桜ちゃん。
こっちはこっちでりゅうにべた惚れだ。
「咲桜が謝ることじゃないわ。一応だけど、神宮から謝罪も受けてるし。あたしも高校生んときのことを赦してないわけじゃないわ。ただ単に神宮がいけ好かないだけよ。咲桜に怒ってるわけでもないわ。だから~~~あーごめん。ほんと今のはなかったわ……」
絆が落ち込んでしまったので、そろそろ出て行くか。
「絆。りゅうさ、咲桜ちゃんのこと、絶対幸せにするよ」
俺が言うと、疑わし気に睨まれた。
「ほんと。俺とふゆが保証する。『咲桜』ちゃんと出逢ってから、りゅうの選択肢の先には、いつも咲桜ちゃんがいた。むしろ、咲桜ちゃんがいるからその道を選んでいるくらいだ。絆にりゅうを信用してくれとは言わない。でも、咲桜ちゃん自身が『幸せ』だと思っていることは、否定しないであげてほしい」
咲桜ちゃんもまた、りゅうと生きるためにこの法律の世界を選んだ。
二人の間に横たわる問題は大きすぎる。
戸籍上はなんの関係もないし、咲桜ちゃんは在義さんの長女として届け出が受理されている。
だから、二人がそれをゆるしてしまえばそれまでなんだろうけど、そこにたどりつくまで、りゅうと咲桜ちゃんはどれだけ傷付くのだろう。
……傷付いても、一緒にいる未来をかけている。
定時まで咲桜ちゃんは事務所にいて仕事を終えた。
咲桜ちゃんを見送った絆は、深く息を吐いた。
「降渡」
「!!!」
びくっと肩が跳ねる。ああー……お怒り、ですよね……。