桜台法律事務所。

絆の大学の先輩である桜台涼花さんが所長を務める小さな法律事務所は、ビルの一階にある。

今は涼花さんと絆の二人しかいないけど、二度目の受験で行政書士資格をとった咲桜ちゃんは、高校を卒業したらここに入ることになったらしい。

学校も自由登校になるので、咲桜ちゃんは時間を見つけてはここで働く準備を始めていた。

今日は在義さんの代理みたいな形で、俺が涼花さんのところに来ていた。

……実をいうと、りゅうが所属する城葉犯研と、この桜台法律事務所は提携関係にあるのだけど。

咲桜ちゃんはまだ知らないだろうな。

書類整理の場所を絆に教わっていた咲桜ちゃんが、涼花さんの問いに振り返る。

「あ、はい。流夜くん――神宮流夜さんです」

「え」

バサバサッ

間の抜けた声を共に、派手に書類が散らばった。

……ああ、なんでこんな急に修羅場って訪れるんだろう。

「神宮? 華取さんたちの後継の一人か? 雲居」

「はい。実は、二年前は婚約状態で――」

「はあっ⁉」

絆の大声に、咲桜ちゃんがびくっと震えた。

咲桜ちゃん、絆のりゅう大っ嫌いはあまり知らないからなあ……。

「だ、大丈夫ですか? 絆先輩――

「ちょっと待ちなさい咲桜。二年前って……咲桜は高一で、あいつは教師だったでしょ?」

「はい。マナさんに仕組まれました。最初は全然そんな気なくて、偽婚約だったんですよ。でも――すきになっちゃって」

「………」

ほんのり頬を染める咲桜ちゃんに、絆は顔色をなくしている。

それから、ギギギ、と古びたロボットのような動きで俺の方を見た。

「ふ、降渡? あんたは知ってたわけ……?」

……飛び火した。

そして絆には嘘をつけない体質の俺です。

「あー、うん。一応」

「そんな……っ、せっかく出来た後輩があんな悪逆非道な奴の彼女だったんなんて……!」

もう絆ん中のりゅうの評価すげえな。

「あのな? 絆。りゅうは咲桜ちゃんとの関係護るために教師辞めたりして、りゅうは咲桜ちゃんには本気だから――

「あれが本気になることがあるの? ド級の事件頭野郎が」