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008_リーンの場合1
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わたくしはリーン・ソリティア。ザルグアーム・デ・キルラ国の第四王女です。
お父様は言うまでもなく国王をしています。そのお父様から呼び出しがあり、執務室へと向かいました。
「おお、リーンよ。よく来たな。そこに座りなさい」
ソファーに座ると、紅茶とお菓子が出されます。
わたくしはお父様が口をつけるのを待って、紅茶に手を伸ばしました。
「今日呼んだのは、リーンの婚約の話だ」
わたくしは王女ですから、巷で流行っているような恋愛結婚は諦めています。しかし実際に婚約と聞くと、やっぱり恋愛がしてみたいと思ってしまいます。
「相手はボルフェウス公爵の息子だ」
ボルフェウス公爵家はこの国でも有数の名門の家です。現当主は【聖騎士】の加護を授かっていて、この国でも有数の戦力だとか。
しかし、おかしいですわね。ボルフェウス公爵家の嫡子は既婚者だったはず。昨年、盛大な結婚式があったと聞きました。
「お聞きしてもよろしいですか」
「構わんぞ」
「ボルフェウス公爵家の嫡子は既婚者ではなかったでしょうか」
「あぁ、これはすまん。リーンの相手は四男で、スピナーという名だ」
「え? 四男……?」
わたくしは仮にも王女。そのわたくしが、四男に輿入れ?
貴族の四男はいずれ平民になる人物。わたくしは平民の下に輿入れするのですか。
「スピナーは優秀な子供でな。リーンも噂を聞いたことがあるのではないか」
そう言えばボルフェウス公爵家のスピナー様の名は何度か聞いたことがあります。
本当かどうかは知りませんが、1歳の時に文字の読み書き算術ができた天才だとか。
ただ、わたくしが知っているのはそのくらいで、パーティーでもお会いしたことはありません。
お父様はスピナー様を天才だとか麒麟児だとか持ち上げます。
ですが、スピナー様は四男。家は継げない方。
わたくしは貴族ではなく、平民の下に降嫁するのですね。なんだか気分が悪くなってきました。
お父様の執務室を辞すると、自室へと急ぎました。
部屋に入ると、ベッドに倒れ込むように体を預ける。
「お父様は、わたくしのことが可愛くないのかしら」
よりによって平民への降嫁なんて……。
それともボルフェウス公爵と取引をしたのかしら? わたくしを差し出す代わりに、お父様は何を得たの……?
・
・
・
あれ以降、ボルフェウス公爵家のスピナー様の情報を集めました。
これまでにパーティーに出たことのない変人。お茶会の誘いも全て断っていると聞きました。どうも容姿があまりよろしくないらしい。
性格がかなり歪んでいるとも聞きました。かなりの癇癪持ちで、ちょっと気に入らないことがあったらメイドなどの使用人を鞭打つらしいのです。時にはやり過ぎて使用人を殺してしまうこともあるらしい。
いくらなんでもこんな人に輿入れしたくない。ボルフェウス公爵がお父様にどんなことを吹き込んだか知りませんが、わたくしはスピナー様、いや、スピナーなどの妻にはなりません!
スピナーはわたくしと同じ年齢だから、王立レイジング学園の入学試験を受けます。
「あなたが、ボルフェウス公爵家のスピナー殿ですね」
試験前にスピナーを呼び止めました。
聞いていた通り、白に近い薄い灰色の髪をしていたからすぐに分かりました。
振り向いたスピナーの瞳は美しい金色をしていましたが、とても眠たげな目をしていました。
精彩のない人物ですが、容姿は悪くありません。むしろ、美形だと思います。
「始めて御意を得ます。私はボルフェウス公爵が四男、スピナーと申します。以後、お見知りおきくださいませ」
跪いて口上を述べるスピナーの肩に、クモが居ました。わたくしは虫があまり好きではないため、とても嫌な気分になりました。
「わたくしのことは知っているようね。第四王女のリーンよ」
自己紹介は最低限のマナー。スピナーごときに侮られるようなことはしません。
「楽にしなさい」
「はい」
立ち上がったスピナーは、わたくしより少し背が低かった。
わたくしより小柄なのもマイナス要素だわ。
「わたくし、あなたとの婚約は承知してないわ。婚約者面しないでくださるかしら」
眠たげな目をやや開いた。
ふん。わたくしを妻にできるだなんて、思わないでほしいわ。
「「姫様!?」」
執事のチューリと近衛騎士のメリルがわたくしを止めた。
「姫様。これはなりません。今すぐ、撤回をお願いいたします」
執事のチューリが撤回しろと言うけど、わたくしはそのつもりはありません。
「承知しました。以後、お見かけしましても、声などをかけぬように心がけます」
意外な言葉。でも、言ったことを守らないような人物なんでしょ。
リーンがスピナーと話している。そんな男は放っておきなさい。
「そもそも公式とか非公式とか関係ないのです。リーン様は私との婚約を望んでいないのですから、私はそのことを父に報告するだけです。あとは、お互いの父親同士が話し合いで決着をつけることだと思いますよ」
スピナーの声が聞こえてきました。
父親同士で話し合うとか言ってますが、どうせ泣きつくのでしょ。わたくしの気持ちは変わりませんわよ。
その後、わたくしは気分よく入学試験を受けることができました。
見直しも完璧です。主席はいただきましたわ。
008_リーンの場合1
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わたくしはリーン・ソリティア。ザルグアーム・デ・キルラ国の第四王女です。
お父様は言うまでもなく国王をしています。そのお父様から呼び出しがあり、執務室へと向かいました。
「おお、リーンよ。よく来たな。そこに座りなさい」
ソファーに座ると、紅茶とお菓子が出されます。
わたくしはお父様が口をつけるのを待って、紅茶に手を伸ばしました。
「今日呼んだのは、リーンの婚約の話だ」
わたくしは王女ですから、巷で流行っているような恋愛結婚は諦めています。しかし実際に婚約と聞くと、やっぱり恋愛がしてみたいと思ってしまいます。
「相手はボルフェウス公爵の息子だ」
ボルフェウス公爵家はこの国でも有数の名門の家です。現当主は【聖騎士】の加護を授かっていて、この国でも有数の戦力だとか。
しかし、おかしいですわね。ボルフェウス公爵家の嫡子は既婚者だったはず。昨年、盛大な結婚式があったと聞きました。
「お聞きしてもよろしいですか」
「構わんぞ」
「ボルフェウス公爵家の嫡子は既婚者ではなかったでしょうか」
「あぁ、これはすまん。リーンの相手は四男で、スピナーという名だ」
「え? 四男……?」
わたくしは仮にも王女。そのわたくしが、四男に輿入れ?
貴族の四男はいずれ平民になる人物。わたくしは平民の下に輿入れするのですか。
「スピナーは優秀な子供でな。リーンも噂を聞いたことがあるのではないか」
そう言えばボルフェウス公爵家のスピナー様の名は何度か聞いたことがあります。
本当かどうかは知りませんが、1歳の時に文字の読み書き算術ができた天才だとか。
ただ、わたくしが知っているのはそのくらいで、パーティーでもお会いしたことはありません。
お父様はスピナー様を天才だとか麒麟児だとか持ち上げます。
ですが、スピナー様は四男。家は継げない方。
わたくしは貴族ではなく、平民の下に降嫁するのですね。なんだか気分が悪くなってきました。
お父様の執務室を辞すると、自室へと急ぎました。
部屋に入ると、ベッドに倒れ込むように体を預ける。
「お父様は、わたくしのことが可愛くないのかしら」
よりによって平民への降嫁なんて……。
それともボルフェウス公爵と取引をしたのかしら? わたくしを差し出す代わりに、お父様は何を得たの……?
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あれ以降、ボルフェウス公爵家のスピナー様の情報を集めました。
これまでにパーティーに出たことのない変人。お茶会の誘いも全て断っていると聞きました。どうも容姿があまりよろしくないらしい。
性格がかなり歪んでいるとも聞きました。かなりの癇癪持ちで、ちょっと気に入らないことがあったらメイドなどの使用人を鞭打つらしいのです。時にはやり過ぎて使用人を殺してしまうこともあるらしい。
いくらなんでもこんな人に輿入れしたくない。ボルフェウス公爵がお父様にどんなことを吹き込んだか知りませんが、わたくしはスピナー様、いや、スピナーなどの妻にはなりません!
スピナーはわたくしと同じ年齢だから、王立レイジング学園の入学試験を受けます。
「あなたが、ボルフェウス公爵家のスピナー殿ですね」
試験前にスピナーを呼び止めました。
聞いていた通り、白に近い薄い灰色の髪をしていたからすぐに分かりました。
振り向いたスピナーの瞳は美しい金色をしていましたが、とても眠たげな目をしていました。
精彩のない人物ですが、容姿は悪くありません。むしろ、美形だと思います。
「始めて御意を得ます。私はボルフェウス公爵が四男、スピナーと申します。以後、お見知りおきくださいませ」
跪いて口上を述べるスピナーの肩に、クモが居ました。わたくしは虫があまり好きではないため、とても嫌な気分になりました。
「わたくしのことは知っているようね。第四王女のリーンよ」
自己紹介は最低限のマナー。スピナーごときに侮られるようなことはしません。
「楽にしなさい」
「はい」
立ち上がったスピナーは、わたくしより少し背が低かった。
わたくしより小柄なのもマイナス要素だわ。
「わたくし、あなたとの婚約は承知してないわ。婚約者面しないでくださるかしら」
眠たげな目をやや開いた。
ふん。わたくしを妻にできるだなんて、思わないでほしいわ。
「「姫様!?」」
執事のチューリと近衛騎士のメリルがわたくしを止めた。
「姫様。これはなりません。今すぐ、撤回をお願いいたします」
執事のチューリが撤回しろと言うけど、わたくしはそのつもりはありません。
「承知しました。以後、お見かけしましても、声などをかけぬように心がけます」
意外な言葉。でも、言ったことを守らないような人物なんでしょ。
リーンがスピナーと話している。そんな男は放っておきなさい。
「そもそも公式とか非公式とか関係ないのです。リーン様は私との婚約を望んでいないのですから、私はそのことを父に報告するだけです。あとは、お互いの父親同士が話し合いで決着をつけることだと思いますよ」
スピナーの声が聞こえてきました。
父親同士で話し合うとか言ってますが、どうせ泣きつくのでしょ。わたくしの気持ちは変わりませんわよ。
その後、わたくしは気分よく入学試験を受けることができました。
見直しも完璧です。主席はいただきましたわ。