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007_存在進化
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屋敷に帰ると、さっそくパパの部屋に向かった。
「しばらく屋敷を離れます」
「ん? どういうことだ?」
「せっかく良い加護を得たのです。加護の力を確かめてきます」
「……お前が得た【クモ使い】はそんなに良い加護なのか?」
「何を仰っているのですか。【クモ使い】は種族限定のクモを使役できる加護ですよ」
俺は加護についてパパに語って聞かせた。
剣士系の加護は【剣士】⇒【剣王】⇒【剣聖】の順に上位加護になる。
それに対してテイム系の加護は使役できる範囲が広いほど存在力が少ないものを使役できるというものだ。
魔物全部と動物全部をテイムできる【テイマー】は、対象範囲が広いが故に存在力が弱い個体にしか効果がない。
それに対して【ビーストテイマー】のように獣限定の場合は、より高い存在力に効果を及ぼすことができる。
そして、種族限定の【竜騎士】のような加護の場合は、非常に高い存在力の個体にも効果を表す。
存在力というのは、その個体の強さと考えればいい。
「つまり、俺の【クモ使い】は【剣聖】【聖騎士】【賢者】と言った加護と同等の良い加護なのですよ」
貴族は総じて剣士系や戦士系、それに魔法使い系を尊ぶ。ウチの場合は戦士系を多く輩出する家柄で、書類仕事ばかりしているパパは【聖騎士】だったりする。
「分かった、分かった。それでしばらくというのはどのくらいだ? 半日か? 1日か?」
「1カ月くらいです」
「はぁ? お前、学園はどうするんだ?」
「休みます。大丈夫ですよ、ちゃんと卒業しますから」
「……護衛」
「要りません」
「だがな」
「死にますよ」
「………」
パパは頭を抱えてしばらく復活しなかった。
復活するのを待とうかと思ったが、時間がもったいなかったのでそっと部屋を出た。
「どうでした?」
「俺は1カ月くらい旅に出る。ロックは学園に通ってしっかり勉学に励めよ」
「分かりました」
「あと、課題は俺の部屋に置いておいてくれ。帰ったらやるから」
「了解です」
ロックと2人して俺の部屋に入る。
平民が着るような服に着替え、剣を腰に佩き、背嚢を背負う。
いつでも旅に出られるように、こういったものは事前に用意していた。
「それじゃあ、行ってくる。あとは頼んだぞ」
「スピナー様に言う必要はないでしょうが、気をつけて」
「おう!」
俺は屋敷の庭にある林に入った。
公爵家の敷地は広大で、林があるのだ。
その林の向こうにある裏口から、そっと外に出る。
人通りのない道路に出ると、駆け出す。
「落ちないように、しっかりと掴まっていろよ」
肩に乗っているミネルバに声をかけると、足を挙げて答えた。
ミネルバの感情が以前よりも分かるようになった。これは【クモ使い】の効果の1つだ。
「さあ、行こう! 俺たちの門出の日だ!」
家を出た俺は、まずミネルバの強化を行うことにした。
「あのアリを倒すんだ」
数百のアリが列をなしているところに、ミネルバを投入。
ミネルバは糸でアリを絡めとり、その顎で首を切り取っていく。
「良い攻撃だ。その調子だぞ!」
ミネルバが跳ねて応えてくる。可愛い奴だ。
「っ!? きたーっ!」
ミネルバの存在力が上がる。これは存在進化だ。
テイムされている動物の存在力が、ある一定のところまで貯まると存在進化する。
ミネルバはただの小さなクモだから、存在進化に必要な存在力の量はそれほど多くない。
ミネルバは俺の肩に戻って、糸で自分を包み込んだ。繭のようだ。
10分ほどで糸を切って出て来た。
出て来たばかりはシワシワだったが、5分もせずにクモの形になった。
「倍くらいの大きさになったか」
元々1センチに満たない小さなクモだったが、2センチくらいになった。
色はこれまでと変わらず黒に赤の斑点がある。
「よし、どんどんアリを倒すんだ!」
俺の肩から飛び降りて、アリを再び攻撃していく。
すると、アリの巣から毛色の違うアリが出て来た。
列をなしているアリよりも体が大きく、動きが速い。しかも数十匹が連携してミネルバを攻撃してくる。
「もしかして兵隊アリか」
かなり統制の取れた動きだ。ミネルバはかなり苦戦している。
「糸を兵隊アリの足に絡ませるんだ」
俺の指示を受けたミネルバは、糸を兵隊アリの足に絡ませていった。
1体1体、確実に動きを封じていくと、ミネルバに余裕ができてから反撃開始だ。
「いいぞ、ミネルバ!」
兵隊アリを倒していると、再びあの感覚を味わう。存在進化だ。
残りの兵隊アリを糸で動けないようにしたミネルバは、俺の肩の上で糸に包まった。
毎回肩の上で糸に包まるのかな? 俺の肩が割れた繭のカスで汚れるんですけど。
今度は4センチくらいの大きさになった。
黒に赤と青の斑点と、青色が増えた。
「おお、動きが速くなったぞ!」
元々動きが速かったミネルバだが、存在進化を繰り返したおかげで、さらに速くなった。
体が大きくなったことで、パワーもアップしている。
一気にアリを駆逐したミネルバは、自慢げに俺の肩に戻った。
007_存在進化
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屋敷に帰ると、さっそくパパの部屋に向かった。
「しばらく屋敷を離れます」
「ん? どういうことだ?」
「せっかく良い加護を得たのです。加護の力を確かめてきます」
「……お前が得た【クモ使い】はそんなに良い加護なのか?」
「何を仰っているのですか。【クモ使い】は種族限定のクモを使役できる加護ですよ」
俺は加護についてパパに語って聞かせた。
剣士系の加護は【剣士】⇒【剣王】⇒【剣聖】の順に上位加護になる。
それに対してテイム系の加護は使役できる範囲が広いほど存在力が少ないものを使役できるというものだ。
魔物全部と動物全部をテイムできる【テイマー】は、対象範囲が広いが故に存在力が弱い個体にしか効果がない。
それに対して【ビーストテイマー】のように獣限定の場合は、より高い存在力に効果を及ぼすことができる。
そして、種族限定の【竜騎士】のような加護の場合は、非常に高い存在力の個体にも効果を表す。
存在力というのは、その個体の強さと考えればいい。
「つまり、俺の【クモ使い】は【剣聖】【聖騎士】【賢者】と言った加護と同等の良い加護なのですよ」
貴族は総じて剣士系や戦士系、それに魔法使い系を尊ぶ。ウチの場合は戦士系を多く輩出する家柄で、書類仕事ばかりしているパパは【聖騎士】だったりする。
「分かった、分かった。それでしばらくというのはどのくらいだ? 半日か? 1日か?」
「1カ月くらいです」
「はぁ? お前、学園はどうするんだ?」
「休みます。大丈夫ですよ、ちゃんと卒業しますから」
「……護衛」
「要りません」
「だがな」
「死にますよ」
「………」
パパは頭を抱えてしばらく復活しなかった。
復活するのを待とうかと思ったが、時間がもったいなかったのでそっと部屋を出た。
「どうでした?」
「俺は1カ月くらい旅に出る。ロックは学園に通ってしっかり勉学に励めよ」
「分かりました」
「あと、課題は俺の部屋に置いておいてくれ。帰ったらやるから」
「了解です」
ロックと2人して俺の部屋に入る。
平民が着るような服に着替え、剣を腰に佩き、背嚢を背負う。
いつでも旅に出られるように、こういったものは事前に用意していた。
「それじゃあ、行ってくる。あとは頼んだぞ」
「スピナー様に言う必要はないでしょうが、気をつけて」
「おう!」
俺は屋敷の庭にある林に入った。
公爵家の敷地は広大で、林があるのだ。
その林の向こうにある裏口から、そっと外に出る。
人通りのない道路に出ると、駆け出す。
「落ちないように、しっかりと掴まっていろよ」
肩に乗っているミネルバに声をかけると、足を挙げて答えた。
ミネルバの感情が以前よりも分かるようになった。これは【クモ使い】の効果の1つだ。
「さあ、行こう! 俺たちの門出の日だ!」
家を出た俺は、まずミネルバの強化を行うことにした。
「あのアリを倒すんだ」
数百のアリが列をなしているところに、ミネルバを投入。
ミネルバは糸でアリを絡めとり、その顎で首を切り取っていく。
「良い攻撃だ。その調子だぞ!」
ミネルバが跳ねて応えてくる。可愛い奴だ。
「っ!? きたーっ!」
ミネルバの存在力が上がる。これは存在進化だ。
テイムされている動物の存在力が、ある一定のところまで貯まると存在進化する。
ミネルバはただの小さなクモだから、存在進化に必要な存在力の量はそれほど多くない。
ミネルバは俺の肩に戻って、糸で自分を包み込んだ。繭のようだ。
10分ほどで糸を切って出て来た。
出て来たばかりはシワシワだったが、5分もせずにクモの形になった。
「倍くらいの大きさになったか」
元々1センチに満たない小さなクモだったが、2センチくらいになった。
色はこれまでと変わらず黒に赤の斑点がある。
「よし、どんどんアリを倒すんだ!」
俺の肩から飛び降りて、アリを再び攻撃していく。
すると、アリの巣から毛色の違うアリが出て来た。
列をなしているアリよりも体が大きく、動きが速い。しかも数十匹が連携してミネルバを攻撃してくる。
「もしかして兵隊アリか」
かなり統制の取れた動きだ。ミネルバはかなり苦戦している。
「糸を兵隊アリの足に絡ませるんだ」
俺の指示を受けたミネルバは、糸を兵隊アリの足に絡ませていった。
1体1体、確実に動きを封じていくと、ミネルバに余裕ができてから反撃開始だ。
「いいぞ、ミネルバ!」
兵隊アリを倒していると、再びあの感覚を味わう。存在進化だ。
残りの兵隊アリを糸で動けないようにしたミネルバは、俺の肩の上で糸に包まった。
毎回肩の上で糸に包まるのかな? 俺の肩が割れた繭のカスで汚れるんですけど。
今度は4センチくらいの大きさになった。
黒に赤と青の斑点と、青色が増えた。
「おお、動きが速くなったぞ!」
元々動きが速かったミネルバだが、存在進化を繰り返したおかげで、さらに速くなった。
体が大きくなったことで、パワーもアップしている。
一気にアリを駆逐したミネルバは、自慢げに俺の肩に戻った。