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 021_国王とパパのせいですよ
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 工房にこもって3日……多分、3日だと思うが、誰かが工房にやって来た。
「ロックかな」
 この工房の敷地内に入れる奴は少ない。その1人がロックだ。
 他の奴が無理やり敷地内に入ろうとすると、痛い目を見てもらうことになる。そういうセキュリティ対策を考えるのも楽しいから、結構凝ってしまった。
 そのセキュリティが発動しないということは、ロックの可能性が高い。

「スピナー様……」
 ロックが工房に入って来たが、左目の周りが青痣になっている。
「どうしたんだ、それ?」
「スピナー様のせいですよ。王女様に失礼なことは言うわ、せっかく登校したのにすぐに帰るわ、屋敷に戻らずに家出するわ……。俺、とんだとばっちりですよ」
「ああ、ドルベヌスにやられたのか。すまないな」
 ロックの父のドルベヌスはパパに仕えている騎士だ。ロックは従者として俺のお目付けのような役目を担っているが、俺が好き勝手やるものだから時々……たまに……よく殴られる。
 俺を叱ればいいものを、ロックが殴られる。本当に理不尽だ。こういう理不尽なことが嫌で貴族が好きになれないんだ。と自分のことを棚に上げている自覚はある。自覚があっても、改善する気はないけど。

「屋敷に戻ってくださいよ。スピナー様が戻らないと、オヤジに殺されますよ。俺」
「うーん、あと少しなんだ。それが終わったら帰ると言っておいてくれ」
「勘弁してくださいよ」
「しょうがないな。パパに電信しておくから」
「本当に頼みますよ」
 ロックが縋るような目で見てくる。そんな目をするな。

 この工房には電信が設置してある。
「あー、もしもし。俺、うん。パパに繋いでくれるかな」
 しばらく待つとパパが出た。
「お前は何をやっているのだっ!」
 いきなり怒鳴られた。耳が痛いから怒鳴らないでほしい。リーン様から苦情がきたのかな。訴えたという知らせなら嬉しいんだけど。

「パパが何か作って献上しろと言ったじゃないですか。だから工房にこもって作っているんですけど?」
「そんなことは在学中でいいのだ! リーン様になんと言った!?」
「俺の何を知っているのかと、言っただけですよ。あぁ、取り巻きの女たちには法廷で会おうとも」
「このバカ者が!」
 パパはいつになくお怒りのようだ。

「そんなに怒鳴ると血管が切れますよ」
「誰のせいだと思っているんだ!」
「国王とパパのせいですよ」
「なっ!?」
 婚約話が出なければ、リーン様が俺に話しかけることはなかっただろう。それなのに国王とパパが婚約の話を進めるから、彼女も最低限の交流をしようとしたんだと思う。

「しばらく工房に泊まり込みますから、帰らないと思ってください。あ、学園には通いますから安心してください。ただしリーン様がウザいなら色々対策しますので」
「対策とはなんだ。何をすると言うのだ」
「それはその時まで秘密です。パパは秘密を秘密のままにしたいと思いませんか? そのためにもリーン様やその取り巻きを、俺に近づけないでください。そのほうがお互いのためですよ、パパ」
 それで全て丸く収まる。

「くっ……お前という奴は……」
「今のうちに親子の縁を切ったほうがいいかもですよ」
「バカなことを言うな! 何があろうと、お前は私の息子だ!」
 貴族がそれでいいのかと思うけど、だからパパのことが好きなんだ。パパは俺が守るから、安心してよ。

 電信を切り、振り向いたらロックが膝を抱えてうな垂れていた。
「何してるんだ?」
「俺、マジでオヤジに殺されるかも……」
「あ、パパが怒鳴り散らすから、ロックのことを言うの忘れてた……すまん」
「いいですよ、俺なんか」
 床にのの字を書いていじけてるよ。マジでごめんて。

「安心しろ、明日は学園に通う」
「屋敷にも帰ってくださいよ」
「うーん、それはちょっと……」
「そんなぁ……」
「今やっていることが終わったら帰るから」
「じゃあ、オヤジに電信してください」
「はぁ……分かったよ」
 ドルベヌスに電信したらコンコンと説教された。悪い奴ではないのだが、ドルベヌスは生真面目で口うるさいんだ。
 俺のことをちゃんと心配しているってことは、分かっているんだよ。だから感謝しているんだ。

 その日は徹夜して、魔導通信機の出力アップの目途をつけた。
 魔導回路(魔力の通る道のようなもの)を改良した魔導通信機は、これまでと同じ魔力水晶でも3倍近い距離の通信が可能になるだろう。あとは携帯中継機の機能があれば、かなり使い勝手がよくなると思う。そうなれば、戦場などでも使いやすくなるだろう。

 魔力水晶は魔物が持つ魔臓器から魔力を抽出したもので、これが魔導通信機のエネルギー源だ。
 また、魔導回路の構築はセンスが要るもので、誰にでも弄れるというものではない。下手に弄ると、魔力が暴走して大爆発ってことにもなりかねない。
 魔力水晶も魔導回路も俺が開発しているもので、共に生産するのが難しいことから1つの商会の独占になっている。まあ、その商会は公爵家(ウチ)の資本が入っているところなんだけどね。

 魔導通信機の構造は、魔導回路を除けばそこまで難しくない。
 魔力というのは、大気の中を伝わる性質がある。正確に言うと、大気中にある魔素という魔力の元のような物質の間を伝わる性質がある。
 魔素は大気中に多かれ少なかれ含有されているもので、魔力が伝わる性質を利用して情報を運搬するのだ。
 本来であればどこまでも魔素に乗って情報を乗せた魔力を運べるのだが、それを阻害する瘴気という物質も大気中には含まれている。
 瘴気は魔力を魔素に分解する性質があるため、魔素に乗って進む魔力が瘴気によって劣化させられるのだ。
 そのため、現在の小型魔導通信機の出力では1キロくらいしか情報を伝達できない。
 10年もすれば、この問題が技術系大学の試験に出るからなー。

 これを軍部に提案して、採用されたら代金の一部としてグレディス大森林に隣接する土地でももらおうかな。そこに研究工房を建てるんだ。
 本来は森林内に工房を建てたいが、あそこは八カ国の緩衝地帯になっているから色々問題になるとパパが言うんあよね。俺は構わないけど、パパが困るだろうからこの国の土地に建設だ。

 グレディス大森林は色々な魔物がいるし貴重な植物や鉱物もあっていい土地だから、こんな面白みのない王都にいるよりもよほど楽しい研究生活が送れるはずだ。
 家に帰る日が来たら、パパにもう一度頼んじゃおうっと。