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 014_人助け
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 グレディス大森林に入って1カ月近くが経った。
 この1カ月、クモ型の魔物には出逢えてない。
 この森は広大だから、1カ月で探索できる場所などほんの一部でしかない。
 残念ながら今回は一度家に戻ることにしたのだが、もうすぐ森を抜けるという所で、悲鳴が聞こえた。
 どうやら誰かが魔物に襲われているようだ。
「ミネルバ、行くぞ」
「キュッ」

 その悲鳴のほうへ走り出す。
 森の中で4人の男女が、8体のフォレストウルフに囲まれているのが見えた。
 魔法使いと思われる女が、倒れている。

「ミネルバ、行け!」
「キューッ」
 ミネルバの姿が木々の陰の中に消えていく。
 ミネルバは闇属性のクモ型魔物だ。しかも推定Sランクの魔物である。
 闇を操ることなどお手の物で、闇の中に入って移動することもできる。

 再び姿を現したミネルバは、一瞬で3体のフォレストウルフを切り刻んだ。
 間髪入れずに残りの5体を糸で絡めとって、細切れにした。

「ななななな、なんだ、あのクモは!?」
「Dランクのフォレストウルフを一瞬で無力化したぞ!?」
「あああ、私たち……クモに食べられちゃうのね」
「嫌だ、死にたくない……」
 戦士系の男、剣士系の女、魔法使い系の女、僧侶系の男がミネルバを見て腰を抜かした。多分、冒険者だろう。
 4人とも若く見える。おそらく15歳くらいだ。

「大丈夫か」
「「「「え?」」」」
 俺とミネルバを交互に見る4人の動きがシンクロしている。

「ミネルバは俺が使役している。攻撃されない限り攻撃はしないから安心しろ」
 そう言うと、魔法使いの女の傷を癒す。
「あ……ありがとう」
「おう」

 4人が自己紹介できるまでに少し時間がかかった。
「助かったよ。俺は冒険者のサンダースだ」
 戦士系の男はボサボサの赤毛で、体が大きい。

「ありがとう。私はカミラよ」
 剣士系の女はショートの茶髪で、活発な感じを受ける。

「私はエンビー。助けてくれて感謝するわ」
 魔法使い系の女はロングの黒髪で、とても胸が大きい。

「神とあなたに感謝します。僕はニドと言います」
 僧侶系の男は短い金髪に、修道服。

「俺はスピナー。旅の途中だ」
「「「「旅!?」」」」
「なぜ驚く?」
「このグレディス大森林内を旅する意味が分からんのだけど!」
 サンダースがそういうと、他の3人も激しく頷いた。

「俺とミネルバなら、問題ない」
「Dランクのフォレストウルフを瞬殺できるなんて、そのクモちゃんはかなり強いよね?」
「多分Aランクかな」
 本当はSランクか災害級なんだけど、調べてみないと分からないからね。

「「「「はぁっ?」」」」
「そこまで驚かなくていいだろ」
「驚くに決まっているだろ。Aランクの魔物なんて、簡単に使役できないんだぞ」
「サンダースは大げさだな。そんなことより、フォレストウルフを解体しなくていいのか?」
「いや、これはスピナーのだから」
「Dランクの魔物の素材なんて必要ない。4人で分ければいい」
「本当にいいのか?」
「文句言わないし、怒ったりもしないから」
「助かる」
 4人は解体を始めた。もっとも、5体はバラバラになっているので、魔臓器くらいしか回収できないだろう。
 3体は首を切り落としているので、解体すれば毛皮が使えるはずだ。

 解体が終わると、森を出た。
「私たちはゴーザを拠点にしているんだけど、スピナー君はどこへ行くの?」
 傷を癒してやったせいか、エンビーが距離を縮めてくる。
 大きな胸が時々当たってますよ。嫌じゃないけど、気持ちいいから止めてほしい。

「俺もゴーザだよ。列車に乗ってセントラルに行くつもりだ」
「セントラルかー。私もいつか行ってみたいわ」
 ボインッと胸が肩に当たる。いい柔らかさだ。

 話をしながら歩いていると、ゴーザが見えてきた。
 危険なグレディス大森林の近くにあるため、重厚な防壁に守られた町だ。
「それじゃあ、俺はこれで」
「あ、待って。お礼がしたいんだけど」
「そんなことはいい。それよりも、身の丈に合った狩りをするようにするんだぞ。命は1つしかないんだから」
「むー。スピナー君のいけずー」
「いけずとかじゃなく、本気で命を大事にしろよ。それじゃあ」
 エンビーが何かを言いたそうだが、それを振り切って駅へと急いだ。
 あのまま一緒にいたら、食われそうな感じがしたから早めに別れるに限る。

 駅でセントラル行きの列車の時刻表を確認したら、最終便が出てしまった後だった。
 仕方ないので駅の近くの宿に泊まることにした。
「申しわけございません。当ホテルでは未成年者の方だけの宿泊はできません」
「金ならあるぞ」
「お金の問題ではなく、そういう決まりなのです。申しわけありません」
 コンシェルジュが決まりだからと取り付く島もない。

 貴族の権力を振りかざすことはできるが、そんなことをするつもりはない。
 他のホテルを当たることにしたが、どこも同じだった。
「仕方ない。野宿するか」
 この1カ月、森の中で野宿していたのだから、今日1日野宿したって変わらない。

「飯でも食いに行くか」
 町中を歩き、最初に良い匂いがした店に入った。
「1人だが大丈夫か?」
「はーい。お1人様、ご案内ー」
 ウエイトレスについて店の奥へ向かう。

「あっれー、スピナー君じゃない」
「ん。ああ、エンビーさんか」
 先程分かれたエンビーとカミラが食事していた。
「一緒に食べようよ」
「いいのか?」
 俺も男だ。美人の2人と食事するのは、望むところだ。

「いいよ、いいよ。ねぇ~カミラ」
「もちろんだ。命の恩人に食事を奢らせてくれ」
 エンビーが自分の横の席に座れと、ポンポンと椅子を叩いた。

「それじゃあ、失礼する」
「スピナー君。何を食べる?」
「ここのファイアボアのステーキは絶品だよ」
「カミラさんが勧めてくれた、ファイアボアのステーキをもらおうか」
 ウエイトレスに注文する。

「サンダースとニドは居ないのか?」
「あの2人なら、大人の店に行ったわ」
 男女4人のパーティーだから2対2で付き合っているのかと思ったが、どうやら単なるパーティーメンバーのようだ。
 てか、サンダースはともかく、僧侶のニドはそんなところに行っていいのか?

「スピナー君は列車に乗らなかったの?」
「最終便が丁度出た後だったんだ」
「ああ、なるほど~。それじゃあ、今日はゴーザで泊まるんだ」
「そう思ったんだけど、未成年1人ではホテルに泊まれないらしい。おかげで、野宿だ」
「それなら、私とカミラの部屋においでよ。泊めてあげるよ」
「いや、女性の部屋に転がり込むのはさすがに良くないだろ」
「そんなこと構わないよ。ねえ、カミラ」
「うん、構わないよ。スピナー君は命の恩人なんだし、おいでよ」
 そんなに簡単に男を泊まらせたらダメだぞ。
 だが、今日は雨が降りそうだから、助かる。情けは人の為ならずと言うが、本当だな。
「それじゃあ、お言葉に甘えるよ。ありがとう」
 その後、ファイアボアのステーキを食べて満腹になった俺は、2人の家についていった。