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 012_好き嫌い
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「ミネルバはもっと魔臓器を食べたいか?」
「キューキュー」
 食べたいと言っている。
「よし、もっと魔物を狩るぞ!」
「キュー」
 鎌になった2本の前足を上げて、俺の言葉に応えるミネルバの仕草が可愛い。

 次の魔物を探して進むと、今度はブラックリザードを発見した。
 体長1メートルほどのトカゲ型の魔物で牙に毒がある。危険度はEランク。
 地面を蹴ってジャンプして、頭部に剣を突き刺す。
 ビクッと体が跳ねたが、反撃されずに死亡を確認。
 解体して魔臓器を抜き取る。今度は黒いクリスタルのような魔臓器だ。

「黒の魔臓器だが、食うか?」
「キュー!」
 俺の手の上で黒の魔臓器に食らいついた。

 魔臓器はその魔物が持つ属性によって色が変わる。
 無属性なら透明、火属性は赤、水属性は青、風属性は緑、土属性は茶といった感じだ。
 今ミネルバが食べている黒は闇属性になる。
 また、強い魔物ほど魔臓器の重量が重くなる。体積ではなく重量で、魔物の強さが測られるのがスタンダードだ。

 真っ黒なミネルバだが、スモールスパイダーは無属性の魔物だ。
 無属性の透明ではなく、黒の魔臓器でも食えるようだな。自身の属性でなくてもいいということだろうか。

「キュ~」
 美味しかったと言っている。
 存在進化は起きないか。さすがに、連続で発生するものではないようだ。

 次に発見した魔物はマーブルホッパー。
 体長2メートルのバッタ型の魔物で、体中に毒々しい斑模様がある。こんな毒々しい模様なのに毒はなく、頭の先端にある角で敵を突き刺す硬派な戦い方だ。
 10メートルを一瞬で移動する脚力から繰り出される刺突攻撃はかなり危険だが、直線的な攻撃しかしないので対処は簡単だ。

「ほいっと」
 スガン。
 俺を突き刺そうと一気に距離を詰めてきたマーブルホッパーを躱したら、後ろにあった大木にその角が刺さって、身動きが取れなくなった。
 これを狙ってわざと大木を背にしたわけだが、こんなに簡単にハマってくれるとは思いもしなかった。

「キュー!」
「ん、ミネルバが()るのか?」
「キュッキュ!」
「よし、行け」

 俺の肩からマーブルホッパーに向かって飛び出したミネルバは、その鎌のような前足で切りつけた。
「浅い」
「キューッ」
 マーブルホッパーの上に乗って、鎌で切るがパワーが足りない。
 マーブルホッパーは足でミネルバを蹴ろうとしたが、それを巧みに躱す。

「キュッキュッキューッ」
 怒ったぞと言っているようだ。
 糸でぐるぐる巻きにし、マーブルホッパーの動きを封じると、傷口に何度も鎌を叩きつけて傷を深くさせていく。
 同じところを切りつけるとか、ミネルバは賢いな。

 マーブルホッパーは藻掻くが、糸が邪魔して思うように動けない。
 やがてマーブルホッパーは動かなくなり、死亡した。

 木に角が刺さらなかったら、ミネルバに勝ち目はなかっただろう。
 なんとも間抜けな死に方だが、このちょろい魔物が危険度Dランクなんだよ。
 解体して透明の魔臓器を回収すると、ミネルバはそれも食らった。
「キューッ!」
 存在進化だ。俺の肩に乗って繭を作った。

 存在進化したミネルバの種族は、ポイズンスパイダーになった。
 危険度Eランクのポイズンスパイダーは、体長15センチ程で毒を使う。前足の鎌も体に比べ大きくなっている。
「毒ということは、闇属性がついたか。黒の魔臓器を食ったからだろうな」
 黒の魔臓器を食ったら闇属性になった。他の属性ならどうなるのかな?
 メモを忘れずに書いておこう。

「面白くなって来たぞ! ミネルバ、どんどん狩るぞ!」
「キューッ」
 俺とミネルバは、グレディス大森林の奥へと向かった。

 グレディス大森林は外周部こそ危険度EやDランクが生息するが、ちょっと奥へ入っただけでCランクやBランクが出て来るような場所だ。

「はっけーん」
 危険度Cランクのビッグマウス。体長5メートル程のミミズの魔物だ。
 その名の通り、体の太さ以上に口が開いて人間を丸飲みにする。
 しかも、数万本の歯がかえしのように何層もあって、一度食らいつかれたら離れない。

「エンチャントウオーター」
 剣に水属性を纏わせる。

「キューキューッ」
「ん、ミネルバがやるのか? うーん。あいつCランクだから、強いぞ」
「キュキュッ」
 鎌をカチンッカチンッと打ち鳴らして、やる気満々だ。

「分かった。それじゃあ、エンチャントフィジカルアップ」
 ミネルバの身体能力を上げる。
 Cランクのビッグマウスを相手にするんだ。これくらいは良いだろう。
「行ってこい!」
「キューッ!」

 ピッシュンッと飛び出したミネルバは、その鎌でビッグマウスの分厚い皮を切った。
「切れ味はいいが、鎌が小さいから浅傷(あさで)だな。こればかりは厳しいか」
 15センチのミネルバの鎌の長さは3から4センチ。それに対してビッグマウスの胴体は50センチで、皮の厚さは10センチくらいあるはずだ。

 動きはミネルバのほうが圧倒的に速く、ビッグマウスはミネルバの動きに翻弄されている。
「ジリ貧だな」
 動きが速くてもビッグマウスの分厚い皮に阻まれて致命傷は与えられない。

「ん? ビッグマウスの動きが……。ああ、毒か」
 ポイズンスパイダーであるミネルバには毒があった。
 毒なら小さな体のミネルバでも勝ち筋がありそうだ。
 ビッグマウスの動きがどんどん緩慢になっていき、やがて動きが止まった。

「よくやった、ミネルバ!」
 俺はミネルバを持ち上げて、褒め称えた。
「すぐに解体するから、ちょっと待ってろよ」
「キュー」
 分厚い皮に短剣を突き刺して、縦に斬り裂いていく。皮の下にはピンクの肉があり、これは豚肉のように美味しいらしい。

「こいつの肉は美味いというからな」
 本来は肉が美味しい魔物なんだけど、毒で殺したから少し不安がある。だが、毒抜きすればいいだろう。
 1キロほどを切り取って、ガルスの葉に包む。ガルスの葉は抗菌作用がある成分を含んでいるから、生物を包むのにいいんだ。干し肉を包んでいたものを再利用だ。

「魔臓器があったぞ」
 土属性の茶の魔臓器を取り出す。

「食うか?」
「キュイー……」
「茶の魔臓器は要らないのか。もしかして、透明と黒が好きなのか?」
「キュイキュイッ!」
 魔臓器の好みがあるらしい。この魔臓器は革袋に入れて、後日研究に使うとしよう。