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 010_列車の旅
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「子供1枚」
 セントラルステーションに入り、切符を購入した。
 このセントラルステーションは、国内外へと線路が伸びる巨大ターミナルだ。

 切符を購入し、駅員がパチンッと小気味良く穴を開ける。
 南部へ向かうホームへと入り、そこに停まっている列車に乗り込む。
 先頭の機関車は漆黒ボディで、いかにも力がありそうだ。煙突からは湯気が出ていてもうすぐ発車するぞとスタンバイしている。

「しまった……」
 個室に入って、席に座って思い出した。だが、すぐにそれが解消できると思い至る。
「おい、君」
 窓を開けて、少女を呼ぶ。少女と言っても、俺より年上の13歳くらいの子だ。ボブカットの茶髪がとても似合い、ソバカスが特徴的な少女が近づいて来た。

「まいどー。シャケ弁ですか、それともバークレイマスの刺身丼ですか?」
 駅弁を買い忘れていたのだが、売り子が居てくれて助かった。

「シャケ弁とバークレイマスの刺身丼を1個ずつ、それとミント水を1つだ」
「はーい。って、ここ特等車っ!?」
「ん、特等車だと駅弁は買えないのか?」
「でも、特等車の人はレストランで食べますから」
「ああ、そういうことか。俺は駅弁派だから大丈夫だ」
 特等車に乗るのは金持ちばかり。だから、駅弁など買わずに高級な料理を出すレストラン車で食事をする。彼女はそれを言っているのだ。

 代金を払って駅弁を受け取る。少女は「まいどありー」と元気な声を残して立ち去っていく。
「やっぱり列車の旅は駅弁だよ!」
 まずは生もののバークレイマスの刺身丼からいただこう。

「ミネルバも食べるか」
 基本的に小さな虫を食べるミネルバだが、バークレイマスの刺身を小さく切ってわけてやると食べた。
「美味しいか」
 足を上げて美味しいと返事する。ういやつだ。

 俺は一緒についている醤油をかけて、ワサビを広げて口に運ぶ。
「うん、美味い!」
 駅弁は列車の旅の前でも美味しかった。

 汽笛が鳴り、発車の時間を知らせる。
 時々車輪が空回りする音が聞こえ、徐々に動き出す。
 空回りはすぐになくなり、車輪は線路を力強く走り出した。

 列車に揺られ、流れゆく景色を眺める。
 俺が目指すのはグレディス大森林。この森を隔てて8カ国が国境を接する場所だ。

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 グレディス大森林に到着した。ここは多くの魔物が闊歩する魔境。
 この森ならミネルバをもっと存在進化させることが可能だ。今から楽しみで仕方がない。

「俺は野営の準備をしているから、好きなだけ狩りをしておいで」
 ミネルバは嬉々として狩りに向かった。

「石生成」
 コの字型に石を生成して、薪を集めて立体的に組む。

「着火」
 ボワッと薪に火が移り、パチッと薪が爆ぜる。
 湿気っていた薪があったようで、煙がちょっと多い。
 背嚢から鍋を出して火にかける。

「清水」
 鍋に水を溜めたら、この森に入って採取した薬草を千切って入れる。
 次は干し肉をサバイバルナイフで細かく切って煮込む。
 ことこと煮込んで、いい感じに出汁が出たところで味噌を加える。
「この味噌が決め手なんだよね。これがあるとないとでは、美味さが全然違うからね」

 醤油も持ってきているが、今回は味噌スープだ。
 具がごろごろ入った……薬草と干し肉だけだが、味噌スープは美味いんだよ。

「ん、ミネルバがまた存在進化に達したか」
 そんな感覚が伝わって来て、すぐにミネルバが戻って来た。

「1日で3回も存在進化するとか、ミネルバは天才か」
 俺の肩の上で糸に包まる。
 その間に味噌スープをいただくとするか。

「ふーふー、はふはふ。美味い!」
 干し肉がいい具合に柔らかくなっている。
 芳醇な味噌の香りもいいし、薬草のアクセントもいい。
 数百キロの長旅をしてきた疲れが、薬草の効果で癒されていく。

「ふー、満腹だ」
 そのタイミングでミネルバが繭から出て来た。相変わらずしわくちゃな体だ。
 ちょっと待つとクモの体がはっきりしてくる。色は変わらず黒に赤と青の斑点があって、大きさは2センチプラスの6センチくらいだ。
 存在進化が嬉しいようで、ミネルバはあっちこっち跳ねている。

 周囲に結界のマジックアイテムを設置した。
 この結界の中に居れば、魔物に気づかれることはない。
 臭い、音、姿、熱、振動、魔力の全てを隠してくれる。
 それでも進入されたら、警告音が鳴るようになっている。

 焚火の前で外套に包まって、木の根を枕にする。
 森の奥からは魔物と思われる鳴き声が聞こえてくるが、俺はその魔物を狩りに来たのだから不安はない。
 木々の枝葉の間から見える夜空には、満天の星が輝いている。

 ある学者はあの星は死者の魂だと言うが、俺は違うと思っている。
 あの輝きは天体のものだ。この考え方を支持する学者はあまりいない。
 星は1年周期で見える場所が移り変わったり見えなくなるが、1年経つと同じ場所にまた現れる。
 規則正しく、まったく同じ場所にだ。

 死者の魂の輝きなら、星の数に変化が見られないことに矛盾が生まれる。
 1年周期で同じ場所に現れる理由も明確になってない。
 ロマンティストたちはそれらを無視して、魂だと強く主張する。
「星のことはどうでもいいな」
 俺はゆっくりと目を閉じる。胸の上に居る大きくなったミネルバの重さを感じつつ、眠りについた。