──「だからさ……」

「おい逃げんな。お前、英文科だろ?あそこ、女子率高いじゃん!」

「あのね……片山君。俺と君は、学食で隣り合わせになって、一言二言会話しただけの仲でしょ、それを、いきなり、何言ってんの!」

静かな図書館に、男の子特有のじゃれ合いのような声がいきなり響いてきた。

「なあ、そう固いこと言わずにさ、ゆう君!」

「いや、片山君……。君に、ゆう君呼ばわれされる筋合いないし。それに此処、図書館。静かにしましょう。みんな、 チラ見してるでしょ?」

「……えっ」

「じゃあ、そういうことで」

「いやいや、ちょっと、待った!斎藤優!」

「なっ!!人のフルネーム、こんなとこで呼ぶなよな!」

「あっそ、でも俺諦めないよ」

「あー……。もう、悪いけど、今日は失礼するよっ!」

書棚の向こう側から、聞こえて来た声は、確かに、黒縁メガネの彼──、ミモザの君のもの。

まさか彼が来るなんて、それだけでも驚きなのに、私の頭は混乱していた。


──ゆう君。

たしかにそう聞こえた。

そんな。

ゆう、なんて、ありふれた名前だし。

それに、あの、ゆう君だって、本当は、祐介とか、優太朗とか、だったのかも知れないし。