「ゆうくん、またほしのおうじさま?」

王子様がキツネから言葉の贈り物をもらうページをめぐりながら、ゆうくんが、ニコッと笑った。

ゆうくんは、絵本スペースの常連だ。私が訪れると、ゆうくんはいつも居た。

今思えば、私が入院する度に、ゆうくんの姿を見たから、病気が重かったのかもしれない。

「せいちゃん、おいで、よんであげるから」

左の目元に小さなほくろがあって、黒髪からのぞかせる瞳は透明感があって、私は、ゆうくんの瞳が好きだった。綺麗な宝石みたいで。

「うん、キツネさんのでてくるとこ、せいかもすき」

ゆうくんは、私より頭一つ分大きい。

本当の名前も歳もわからない。子どもだったから、気にしていなかった。

ただ、此処で、ゆうくんと、本の世界へ、一緒に冒険できるのが楽しかった。

「ゆうくんがおうじさまで、わたしがキツネさんね」

ゆうくんは、私の頭をくしゃっと撫でると冒険へのページを捲った。

ーーーーずっと忘れていた昔の思い出。

いつしか、大きくなるにつれて、喘息も起こさなくなってきた私は、入院することもなくなり、ゆうくんともいつの間にか会わなくなっていく……。

「せいちゃん、きずながなければ、ほんとうに、しることはできないんだってさ」

キツネさんの言葉だ。最後に私が退院する時に会ったとき、確かゆうくんは、私の手を握ってそう言ったと思う。